第20話 通りすがり

「いやその……」


 お昼の一時半。目印は駅前の象徴である誰かしらの銅像。


 わたしは茅ちゃんとここで待ち合わせをしていた。


 同じ家に住んでるんだし、一緒に行けばいいと思っていたけど、待ち合わせをする方が遊びに行く感が出ていいんだとか。


 だから少しだけお互い家を出る時間をずらして出発していた。


 まあそのせいで厄介なことに巻き込まれてるんだけど……


「だから妹と待ち合わせしてて……」

「えー、じゃあ連絡先教えてよ?」

「無理です……」


 なんだこの男。ナンパか? これがいわゆるナンパってやつなのか?


 わたしの周りを知らない男の人がうろうろうろ。面倒だ。


 実際ナンパ自体を経験したことがないわけではないけど、そういうときはだいたい美々ちゃんか他の友達がいた。


 一人のときにナンパされるのは初めてだ。


(はあ…… 早く茅ちゃん来ないかな……)


 なんか前も似たようなことがあったな。楓ちゃんの連絡先教えてくれって人。あの人もしつこかったよなあ。えーっと、確か名前は…… あれ、なんだっけ? うーん、まあいっか。


「じゃあその妹さんが来るまで俺が話し相手になってあげるよ。ね、それならいいでしょ?」


 いいわけあるか。知りもしない人と話すことなんてない。


 わたしは相手にするのさえも面倒になって、何も答えないことにした。


 こういうのは無視が一番いいと、美々ちゃんが言っていた。


「俺の名前ヒロト!」


 しかし最近のナンパはちゃんとオシャレなんだなあ。


「君可愛いよね! 服もめっちゃ可愛いし!」


 ナンパって言われると、もっとチャラチャラしたイメージってない? なんかダボっとしたズボン履いてて、変なアクセサリーつけてるみたいな。


「今日は妹さんと何の予定なの? 俺もついて行っちゃおうかなーなんて」


 でもこの人は結構オシャレなんだよね。意外だなあ。


「ねえ、聞いてる?」


 ナンパなんてしなくても普通にモテそうなのに。いや、モテないからナンパしてるのか?


「ねえ──」

「由衣!」


 男の人の手がわたしの肩に触れたとき、わたしの名前を呼ぶ声が聞こえた。


「あ、茅ちゃん!」


(やっときた!)


 この人のせいで変に時間が長く感じられた。


 なんか勝手に話してたけど、まあたいした内容じゃないよね。


「由衣! 誰!?」

「知らない人だよ」

「ちょ、ちょっとひどいなあ。自己紹介したじゃん、ヒロトだって!」


 あれ、そうだっけ。


「君が妹さん? いやあ妹さんもさすがに血が繋がってるだけあって可愛いね!」


 残念ながら繋がってませんよ。


「俺も一緒に遊びに行きたいなあ。どう?」

「……由衣、この人ほんとに誰?」

「だから知らない人だよ。ナンパ? なのかな?」

「はあ!?」


 そ、そんなに驚かなくても。わたしにナンパが寄ってくることが意外なのかな。それはまあわたしもそうなんだけど。


 他にも可愛い子いっぱいいるのになぜわたし? チョロそうに見えたとか?


「そうでーす。通りすがりのナンパでーす」


 そう言って、わたしの肩に右手を乗せ、左手でピースをしている。


 ……チャラいな。見た目はどっちかというと爽やかだけど、中身はやっぱりそうなんだな。てか勝手に触らないで欲しいんだけど…… なんで俺たち知り合いですみたいな態度とってくるの?


「由衣に触るな!」


(え……)


 わたしが拒否するよりも先に動いたのは茅ちゃんだった。


 わたしは腕を引っ張っられ、茅ちゃんの方へと引き寄せられた。


(び、びっくりしたあ…… 急に大きい声出すから……)


「あんたしつこい。勝手に触るのとかセクハラだからね? 早くどっか行って」

「……ちっ。ハズレか」


 そう言い残すと、男の人はどこかへ行ってしまった。


 わたしは何の役にも立たず、ただ頭をかきながら去っていくのを見ることしかできなかった。


 きっとこれからまだナンパでもするつもりなんだろう。これからまた被害に合う女性の方々、お悔やみ申し上げます。頑張ってください。


「はあ…… 由衣、大丈夫だった?」

「うん、ごめんね、変なことになっちゃってて」


 ナンパくらい一人で追い払えるようにならないとなのになあ。


 性格的にあんまり強く言えないから……


「はあ、由衣が可愛いから…… こんなことなら一緒に家から来れば良かった……」


(……ん?)


 茅ちゃんが俯きながら、何やらぶつぶつと呟いている。


「もしかして今までもこんなことあったのかな? ってことはこれからもあるのか…… ちっ、変なやつがうろうろと……」

「……茅ちゃん?」

「ん? なに?」

「いやわたしが可愛いとかなんとかって……」

「え? え、え!? は!? そ、そんなこと言ってないし! 聞き間違いじゃない!?」

「そ、そうかな?」

「そう! 絶対そう! もう早く行こ!」

「う、うん……」

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