第15話 扉の向こう

「美々ちゃん美々ちゃん」

「ん?」

「この映画見たいんだけどさ、今週の休みで一緒に行かない?」

「おっ、これかあ」


 最近テレビやSNSで見かけることの多いアニメ映画。


 なんでも絶対に泣けると話題になっているみたいだ。


 わたしはあまり映画で泣くことのないタイプなのでどれどんなものなんだろう、みたいな興味がものすごくある。


 ちゃんと感動はするんだけどね。


「あー、実はさ、わたしこれもう見ちゃったんだよね」

「え、そうなの?」

「主人公が実は──」

「わー! ネタバレしないで!」

「あははっ、ごめんごめん。まあもう一回見に行ってもいいけどさ、せっかくなら家族とでも行ってきたら?」

「家族? あー、それもありかもなあ」


 あんまり家族と映画を見に行くっていう考えはなかったけど、そっか。


 わたしには妹って存在がいるもんな。


 まだ一緒に遊びに行ったことはないし、とりあえず誘ってみようかな。


「美々ちゃんはよく光莉ちゃんと一緒に遊んだりするの?」

「いやあ、うちはそんなに仲が良いわけじゃないからなあ」


 美々ちゃんには光莉ひかりちゃんという二歳下の妹がいる。


 美々ちゃんの家に遊びに行ったときに何度か会ったことがあるけど、外見だけで言うと美々ちゃんとはあまり似ていない。


 どっちかっていうと美々ちゃんの方がクールなタイプの顔立ちで、光莉ちゃんの方が可愛いタイプの顔立ちをしている。


「由衣のところみたいにどこの姉妹も仲が良いってわけじゃないのよ。めっちゃ喧嘩するしさ」

「ふーん、でもその喧嘩も羨ましいって思ってたなあ」


 美々ちゃんからはよく光莉ちゃんの愚痴を聞いている。


「あいつは部屋が汚い」だとか「わたしのご飯を勝手に食べた」だとか「お風呂に長く入りすぎだ」とか。


 そういうささいなことが原因でよく喧嘩をするらしい。


 わたしはお父さんが再婚するまではそんなことまでも羨ましいと思っていた。


 喧嘩し合える妹という存在がいることがすごい楽しそうって。


 だけど今になって考えてみると、楓ちゃんとか茅ちゃんと喧嘩するのは絶対に嫌だなあと、思うようになった。


 結局は仲が良いのが一番なのかもしれない。


 わたしもみんなを怒らせないようにちゃんと気を付けないと。


「じゃあ誰か映画に誘ってみよっかな。断られないかな?」

「さあ? 由衣が三人とどれだけ仲良くなったかにもよるでしょ」


 だよなあ。どうしよっかなあ。


 三人全員誘うという手もあるけど、みんなそれぞれ予定があるだろうし。


 とりあえず家に帰って考えてみよ。


 ☆


 あれ、誰もいない。


 学校から帰ってリビングの扉を開けると、リビングは空っぽの状態だった。


 でも靴は一足あったから誰か帰ってるはずなんだけど……


 わたしは確かめるために二階に向かった。


(あれ……)


 誰かの声が聞こえる。


 方向からして茅ちゃんの部屋からだ。


「最近めっちゃ仲良くなったの! 彩のおかげだよ!」


 なんか前にもこんなことがあったなと既視感を覚える。


 悪いとは思いながらも、友達との電話を扉の前で盗み聞きしているわたし。


 本当に悪いと思っているのだろうか。


 それにしても彩ちゃん……か。


 いつだったか忘れたけど、茅ちゃんの口から「彩」という言葉が出てきたのを聞いたことがある。


 茅ちゃんと仲の良い友達かな。茅ちゃんにアドバイスをしてあげてるっぽい。


「でさ、次は何したらいいと思う? わたしみんなに置いて行かれてるような気がして……」


 そう言えば、前もこんな感じの内容を話していた気がする。


 好きな人かな。青春してるなあ。


 あれ…… もしかしてこの家の中で青春してないの、わたしだけか?


 お父さんも久美さんも再婚したてで、楓ちゃんも柚ちゃんもモテてるし、茅ちゃんは好きな人がいる。


 え、わたしだけじゃん。


 ああ、なんて可哀そうなわたし……


「ええ!? そんなこと無理だよ! いやだってその…… 恥ずかしいし……」


 むむ、なんか恥ずかしいようなことをするように指示されたらしい。


 恋って大変だなあ。


 茅ちゃんの恋がちゃんと叶いますようにっと。


 なんてことを悠長に考えているとだんだん茅ちゃんの声が近くなってくることに気が付いた。


(ちょっ、ヤバ!)


 わたしは扉の前から反射的に離れた。


 そのおかげで扉にぶつかることはなかった。


 だけど……


 勢いよく茅ちゃんの部屋の扉が開く。


「うわあっ! ちょ、え!? 由衣!? 何してるの!?」

「え、えへへへ……」


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