雨が、降る。 ~私が見つけられないこと~

マクスウェルの仔猫

第1話 雨が、降る。

 雨が、降る。


 雨の匂い。

 傘を手に歩く、人の動き。


 誰かの気持ち。

 誰かの予定。


 雨の日には雨の日の、装いがある。




 きらびやかな店先。

 人待ち顔の誰か。

 雨宿りをする、誰か。


 それぞれの目的を胸に、傘を差して歩く人達。

 肩を寄せ合って、笑い合う男女、家族。


 雨の日には雨の日の、愛情がある。




 雨は、キライじゃない。





 だけど。


 雨の匂いと温かさが詰まっている街の中で。

 店先で、交差点で、駅で、帰り道で、部屋で。


 私には、見つけられないものがある。




「お待たせ。ああ、こんなに濡れちゃって……」


「俺の傘で相合い傘しようか」


「手を繋ぎたいって、聞く事? はい、どうぞ」


「夕飯食べたら膝枕、だめ?仕事が忙しかったので、癒やしがほしいです。え?! 有料?!」




 君がここにいたら、こんな風がいいな。


 夢を見る自分の馬鹿さに、苦笑いをする。




 息を切らせて、傘を差し出す君。


 温もりを感じられる程、肩を寄せてくれる君。


 差し出した手を、嬉しそうに繋いでくれる君。





 どんなに勉強を頑張っても。


 どんなにオシャレをしても。


 どんなに気持ちを伝えても。


 どんなに涙を零しても。










 


 私に笑顔で傘を差し出してくれる君を。


 私を好きになってくれる君を。












 私は、今も。


 見つけられない。 

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雨が、降る。 ~私が見つけられないこと~ マクスウェルの仔猫 @majikaru1124

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