♯19 頼れる仲間たちと、お転婆娘を救うため出航した


 骨董屋のお婆さんの話では、総人口がおそらく五千人に達するだろうこの島――『ビトルビウス』には、墓所が全部で三か所あるらしい。

 とりあえずお婆さんに教えてもらった港から一番近い墓所に(途中何度も通行人に道を確認して)どうにかこうにか辿り着くことが出来たけれど、小高い丘の上にあったその墓所に、あの<魔女>の女の子の姿は見当たらなかった。


「ここじゃなかったか……」


 あんな話をしたあとだから、たぶんあのコはお母さんのお墓もとへ向かったと思うのだけれど……、お母さんが眠る墓所はここではなかったということか。

 それとも、お母さんのお墓もとへ向かったというのは、ボクの見当違いなのだろうか。


「マズいなぁ……」


 もしも見当違いだったら、なんの手掛かりも無くなってしまう。そうしたら、この大きな島であのコを見つけるなんてとても不可能だ。


「とりあえず他の墓所に行ってみるか」


 ボクは大急ぎできびすを返そうとして、ふと視界の隅に気になるモノを見つける。


 墓所の敷地の片隅、整然と墓石が並んでいる一角からだいぶ離れた場所に、大きなかしの木が一本あって、その根元に岩が転がっていた。


「………………」


 近付き、岩をしげしげと観察する。……ただの岩だ。別に墓石っぽい形に加工されているワケでもなければ、表面にヒトの名前のようなモノが彫られているワケでもない。この墓所を訪れたヒトがこの樫の木と岩の存在に遠くから気付いても、『ただの自然な風景』としか認識しないだろう。気にも留めないに違いない。

 でも、岩の前には、いかにも『その辺りでみ取りました』という感じの綺麗な花がいくつも供えられていた。


「……これは、」


 間違いない。これはお墓だ。



 ――『この島の墓地には、私のお母さんが――<魔女>の私を護り、育てるために、自分の幸せを犠牲にして生きて、最後は病気で死んでしまったお母さんが眠っているんだから。……私が墓地の一角に勝手に作った、そこいらで拾った岩がただ置いてあるだけのお墓で、だけど。……でも、私のお母さんがそこに眠っているのよ。お母さんをこの島に残して、私だけ余所よそに行くなんて出来ない』



 あのコの言葉を思い出し、確信する。これがあのコのお母さんのお墓だ。


「でもあのコがいない……」


 やはり、あのコがお母さんのお墓もとへ向かったというのは、ボクの見当違いなのか。

 そうなると完全にお手上げだ。

 もう、あのコの手を掴み、この島から連れ出してあげることは――



 ザアァァァァ……



 そのとき。一陣の強い風が吹いて、お墓に供えられていた花たちが宙へ――ボクの目の前へ、舞い上がった。


 まるであのコが供えた花を、『もう要らない』と言うみたいに。


 自分の本当の望み、一番の願いは、こんなことじゃないんだと、ボクに訴えているかのように。


 ……もちろん、そんなのはただの偶然、ボクの錯覚に過ぎないのだろうけれど。

 でも、


「……わかったよ。意地でもあのコを見つけ出して、この島から連れ出してやる。あとで恨まないでよね」


 ボクは偶然頭の上に乗っかった花を手に取り、微苦笑を浮かべてお墓にそう宣言し、駆け出す。

 こうなったら自棄やけだ――島じゅうを駆けずり回ってでもあのコを見つけてやる!




「――旦那様!」




 ……なーんて決意は出鼻でくじかれた。

 墓所に飛び込んできた(どうやらボクを追いかけてきたらしい)ツバキに呼び止められてしまったのだ。


「どえぇぇぇぇ⁉」


 ボク的に気分がMAXまで盛り上がり、威勢よく駆けだしたタイミングで制止されてしまったため、思わずつんのめり、ズザザザザ……と顔から地面にダイブしてしまう。

 そりゃもう、ギャグ漫画かってくらい派手にすっ転んでしまった……。


いだだだだ……」


 なんでこうイマイチ締まらないんだボクは……。


「だ、大丈夫かの旦那様?」


 大丈夫じゃないよ。ここまでのシリアスな空気を返してよ。


「あーもうっ、鼻を擦りむいちゃったじゃん!」

「安心せい。鼻を擦りむいていたとしても旦那様はイイ男じゃぞ」


 おべんちゃらはらんて。ボク、初対面でキミに『パッしない顔だ』だの『男のくせに精幹さが足りない』だの散々ケチつけられたこと、忘れてないからね?


「そんなことより大変じゃぞ旦那様!」


 そんなことて。

 万が一ボクの顔に傷が残って、そのせいでお嫁さんに来てくれるヒトがいなくなってしまったらどうして


「例の<魔女>の娘っコ、もう<秩序管理教団>の連中に見つかって、捕まってしもうたようなんじゃ!」

「なんだってぇ⁉」


 ――くれるのさ、とか、そんなこと言ってる場合じゃなかった!


「道を訊くため声を掛けようとした通行人たちが話しているのを聞いたんじゃよ」

「話しているのを?」

「うむ。『さっき<秩序管理教団>の司祭っぽい格好をした老人とその部下っぽい三人組の男に、赤毛の女の子が捕まってるのを見たぞ』『この島にもまだ<魔女>がいたのかよ。恐ろしい話だな』……とな」

「っ。それで⁉ あのコは⁉ まさかもう殺されてしまったの⁉」

「いや。どうも司祭と思われる老人が『ただちに本部へ移送し、そこで己の罪深さをちゃんと理解させてから処刑する』と言ってたようでな。捕縛されただけで、まだ殺されてはおらんようじゃ。……殺す前に拷問するつもりなんじゃろう。連中の本拠地があると言われている島――『メンデル』でな」


 ……メンデル。メンデルね。遺伝学の祖と呼ばれている御方おかたの名前じゃないですか。……どういう皮肉だよ、それは。


「……待てよ。ということは、」

「そう、連中はあの娘っコを帆船ふねで移送するつもりじゃ」


 瞬間、ボクの脳裏に、ある光景が甦った。

 ツバキとデート(?)中に目にした光景。

 ボクたちの帆船ふね――『トゥオネラ・ヨーツェン』と少し離れた場所に停泊していたあの悪趣味な横帆船おうはんせん

 船首斜檣バウスプリットの船首像が黄金色こがねいろの女神像なのに、船尾楼せんびろうにまでデカい女神様の彫像をおっ建てていた、いかにも成金っぽい装いのバーク……。


「あのバーク! あれ、貿易船じゃなく、<秩序管理教団>の帆船ふねだったのか!」

「うむ。この島にも<秩序管理教団>の小さな支部があるはずじゃが、旦那様がぶちのめした司祭はおそらくあの帆船ふねで視察しに来た本部のお偉いさんじゃろう。直ちに本部へ移送し云々うんぬん言っていたようじゃから、あの娘っコは既に船上かもしれんな」


マズい! 手遅れになる前に――出航される前にあのコを救い出さないと!






                 ☽






 はい手遅れでした。

 一歩どころか百歩くらい遅かったよ……。


「あっちに停泊とまっていた大きなお船ですか? 一時間くらい前に出航してましたよっ」


 撓艇ボートで戻った『トゥオネラ・ヨーツェン』の甲板デッキにて、ボクの帰還に気付いて嬉しそうに駆け寄ってきたルーナは、ボクの開口一番の質問にアッサリとそう答えてくれた。


「なんてこったい……」


 ガックリと甲板デッキに両手をついて崩れ落ちる。

 一時間前って。あのコがボクの手を振り払って路地に飛び込んだのが今から一時間半くらい前で、ボクがあの墓所に辿り着いたのが一時間くらい前だから、あのコ、速攻で連中に捕まって、そのまま帆船ふねへ連れ込まれたってことじゃん。ボクがあの墓所に辿り着いたときにはもう船上だったってことじゃん。

 どんだけ運が悪いんだよ、あのコ。


「あちらさんの船影は……見えるはずもないか」


 水平線をグルリと見渡すも、あの悪趣味なバークの姿は影も形も無い……というか、多島海だから、あちこちに島影があって、水平線を確認すること自体が困難だ。


「……いや、待てよ? 連中は本拠地である『メンデル』とかいう島へ向かってるはずだ。ツバキ、『メンデル』がここからだとどの方角になるのか、わかる?」

「ああ、わかるぞ」


 縄梯子ラダーを昇って甲板デッキに降り立ったツバキはアッサリ肯いて、「あっちじゃな」と北東を指さす。………………。


「……良い具合に風下だね、あっち」

「そうじゃな。あちらさんにとっては最高の順風、追い風と言えるじゃろうな、この風は」


 つまりボクにとっては最低の風向きってことじゃん!

 ある程度逆風だったら、切り上がり性能で勝るボクたちの縦帆船ふね――トップスル・スクーナーが追いつける目もあったのに! こんな完全な順風じゃあ、帆の形ゆえに風を効率よく受けられるあの横帆船バークにはまず追いつけないよ!


 どうする……どうすればいい? あのバークに追いつくには――


「旦那様。悩んでいる暇があったらまず行動じゃ。風向きなんぞ途中で変わるかもしれんじゃろ」

「ツバキ……」

「――主計長パーサー!」


 ツバキに呼ばれて、撓艇ボート舷側げんそくに引き上げるための作業をしていた主計長パーサーのオッサンが駆け寄ってくる。


「へい、お嬢」

「荷物の積み込みは完了したか?」

「もちろん。お嬢のお陰で無事買い付けることが出来た茶葉も今さっき積み込みが終わったトコでさぁ」

乗組員クルーは? 物資の補給が終わったら交代で上陸し羽を伸ばすよう指示したはずじゃが」

「なにぶん、積み込みが終わったのが今さっきのことなんで。ちょうどこれからおかに上がる順番を決めるトコでした」

「なら、ちょうどいいの。すまなんだが、みなの衆にはもう一働きしてもらうぞ」

「へ?」

「皆の衆、集まれ!」


 ツバキの呼び掛けに、甲板デッキのあちこちで作業をしていたオッサンたちが、なんだなんだと集まってきた。


「――聞け! 今すぐ出航じゃ! この帆船ふねは今から、一時間ほど前まであのへんに停泊とまっていた<秩序管理教団>の帆船ふねを追いかける! 目的は連中に連れ去られた少女の救出じゃ! おそらく荒事あらごとになるじゃろう!」


「「「「「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ⁉」」」」」


 オッサンたちの叫びが甲板デッキを震わせる。『上陸して羽を伸ばせると思ったのに』という不満の叫びというより、『なんでそんなことになったんだ?』という純粋な驚愕の叫びという感じだ。


「……頼む、皆の衆。何も訊かず協力してくれ。これは船長の決定――そしてわらわの意志でもあるんじゃ」

 

 そう言ってツバキは、頭を下げた。

 普段は横柄な態度、顎で、自分よりも一回りは年上の男たちをき使っているお姫様が。

<魔女>であるあのコのために――いや、おそらくは、ボクのために。

 深々と。


「……ツバキ……」


 当然、ツバキにだってわかっているのだろう。

 自分がどれほど無茶なことを言っているかは。

 どれだけ危険な賭けに出ているかは。


 ……だって、ツバキは『何も訊かず協力してくれ』なんて言ったけれど、『<秩序管理教団>の帆船ふねで連れ去られた少女』なんて、普通に考えたら――


「……お嬢」


 少しの沈黙ののち、真っ先に口を開いたのは、買い付けた食材の確認のために甲板デッキに出てきていた司厨長コックの『髭面さん』だった。


「アンタも知ってるはずだ。俺たちはみな、昔は海賊だったってこと」


 え⁉ 髭面さんって元・海賊なの⁉ 主計長パーサーのオッサンとか他のメンバーも⁉ 

 あ、だから操船があんなに上手いのか⁉


「俺たちは昔、アンタの母君に世話になった。アンタの母君がいなければ俺たちは今も海賊のままで……『あの日』野垂れ死んでいただろう。俺たちの家族もな」


 何者なの、ツバキのお母さん……。そして過去にツバキのお母さんと髭面さんたちの間で何があったの? すっごく気になるんだけど……。


「『あの日』俺たちは決めた。この命をアンタの母君のために使うと。この帆船ふねに乗っているのも、アンタの母君にお願いされたからだ。『娘の力になってやってくれ』とな」


 髭面さんの言葉に無言で頷いた主計長パーサーのオッサンが、スッと右手を上げる。


抜錨ばつびょう!」

巻き上げ機キャプスタン回せ!」


 それを見たオッサンたちが持ち場に散り、出航の準備を開始した。

 一切、躊躇することなく。


「お嬢。、そしてアンタたちが救おうとしてる少女の正体がなんなのか……すべて、俺たちにはどうでもいいことだ。アンタは頭など下げず、ただ俺たちに命じてくれればいい――『とっとと船を出せ。戦う覚悟ハラを決めろ』とな」

「…………恩に着る…………」

「だから恩に着る必要など無いと言っている」


 肩を竦めながらツバキにそう言って、髭面さんはボクへと向き直る。


「おまえさんもだ。ボサッとしてないでとっとと号令を出しな。今はおまえさんがこの帆船ふねの船長で――お嬢の『旦那様』なんだろう」


 いやまあ、確かに船長だけど(ついでに言うと『なんも船長』だけど)、ツバキがカグヤにならってボクを『だんなさま』と呼んでることになんの関係が?


 ……まあ、いいや。

 ここで細かいことをツッコむのは野暮というモノだろう。


 ツバキは――そしてボクは、本当に良い乗組員クルーに恵まれたんだなぁ……。


総帆そうはん展帆ひらけ!」

「「「「「了解サー!」」」」」


 いかりを上げることで最初の行き足が充分についたことを確認したボクが号令を発すると、乗組員みんなが一糸乱れぬ連携ですべての帆を展開させる。


「――だんなさま」


 呼ばれて振り向くと、自称・仙女の女の子がそこに立っていた。


「カグヤ? なんだい?」

「……だんなさまはどうしても助けたいんだよね? その少女を」

「……うん」

「今日出逢ったばかりのコでしょう? それでも?」

「確かにボクはあのコの名前すら知らない。でも、あのコの涙を見てしまったんだ。あのコの孤独ゼツボウを知ってしまったんだよ。放ってはおけないさ」

「…………そう、」


 ボクの言葉にカグヤは微笑んだ。


 ……なんでそんな目でボクを見るんだ?


 そんな――子供のころ大事にしていた宝物ばかりを集めた箱を、大人になったのち、押し入れの奥から見つけたような目で。

 もう二度と互いの人生が交わることは無い、一生逢えないだろうと覚悟していた思い出深いヒトの姿を、不意に街角で見かけたような目で。


「――……。あのときも、他の同族なかまに見捨てられてしまったコを救うため、たった一匹ひとりで強敵に立ち向かって……」

「……え?」


 それはいったいなんの話だ?

 強敵??

 ボクの人生で強敵と呼べたのは従妹アズサくらいなものだったけれど???


「わかったよ、だんなさま。わたしも覚悟を決める」


 だからいったいなんの話を――


 ボクが訊ねるよりも早く、カグヤは懐からふたつのおうぎを取り出して両手に持つと、トコトコと歩き出す。

 そして船首楼甲板フォクスルデッキ、舞台のように一段高くなっている場所の中央に立った彼女は、すっと両の腕を伸ばし、目を閉じた。


 そして――ゆるゆると。たおやかに舞い始める。


 その身に纏う、動きやすいように袖や袴などの丈を短くした巫女装束をひるがえし。

 リボン代わりの月下美人でツーサイドアップにしたからすのような美しい黒髪をなびかせて。


 仙女の舞。


 その美しさにボクとルーナの目は釘付けとなり、息をするのも忘れて魅入みいる。

 ツバキも――そして操船に取り掛かっていたオッサンたちもみな初見らしく、手を止めて見惚れていた。


「! カグヤちゃんの瞳と髪の色が……」


 そのことに最初に気付いたのはルーナだった。


 いつの間にかカグヤの髪の色、開かれた瞳の色が変化していた。


 からすのような黒から、紫水晶アメジストを塗したような菫色へ。

 そして、瑠璃玉ラピスラズリのような色合いから、紅玉ルビーのような煌めきへ。


 その色が――移り変わっていた。


「こ……れは……」


 揺れるたび火ののような光の粒を空中に振り撒くカグヤの髪を茫然と見つめながら、ボクは不意に彼女の自己紹介を思い出す。


 ――『わたしは<カグヤ>。この蒼き月の海ルナマリアを管理する仙女の一人で、あなたの魂魄タマシイ伴侶はんりょとなる予定の者といったところかな』


「この蒼き月の海ルナマリアを管理する……仙女。……本当に――」


 瞬間――風が変わった。

 ごう! という唸りを上げて、潮風がその向きを変える。

 真後ろから来ていた風が、一瞬で真横に回っていた。


「これは……⁉」

「帆船にとって最も快適な航海が出来るのは風を斜め後ろから受けたときだけれど、速力が最も出やすいのは風を真横から受けたときでしょ? だからこの辺りの風の流れを変えたんだよ。真横から受けられるように、ね」


 気付けば舞をやめていたカグヤが、コトも無げにそう告げてきた。

 その髪と瞳の色は、いつもの彼女のそれに戻っている。


「逆に、目標の帆船ふね現在いまいる辺りは完全な逆風にしておいたよ。……ただ、いつまで風の流れを変えていられるかはわたしにもわからない。追いつきたいのなら、急いで」


 そしてトコトコとボクの目の前まで戻ってきたカグヤは――不意に力を失い、その場でくずおれた。


「カグヤ⁉」


 危なかった。なんとか抱き留めることが出来た。


「アハハ……。やっぱり、今のわたしに大気循環システムへの干渉は無理があったかな……。でも大丈夫だよ……。少しだけ休めば大丈夫……」


 そう言ってボクの腕の中で気丈に微笑わらってみせるカグヤは、しかし、息も絶え絶えだった。


 彼女が何をしたのか――何を言っているのか、ボクにはわからない。

 ひとつだけ確かなのは、ボクの望みを叶えるために、このコはトンデモない無茶をおかしたらしいということだけだ。

 いつも飄々ひょうひょうとしているこのコが――ここまで憔悴しょうすいしてしまうような無茶を。


「あとでいっぱい褒めて……。甘えさせてね……。だんなさま……」


 そう言って――カグヤは気を失ってしまった。


「…………カグヤ…………」


 ボクは唇を噛み、カグヤの細く小さな身体を抱き締める。

 仙女を自称する女の子の身体は、少しでも力を入れれば折れてしまいそうなほどか弱くて、そしてすっかり体温ねつを失い冷え切っていた。


「……旦那様。カグヤを旦那様の部屋に運んでやれ。寝台ボンクで休ませてやろう」

「うん……」


 ボクは気を失ってしまったカグヤを抱き上げ、船長室ボクのへやへ運ぼうとして、ずっと気になっていたことをツバキに訊ねる。


「ツバキ。今更だけど、本当にいいの? この帆船ふねのみんなを巻き込んでしまって……。ボクだけじゃなく、キミやみんなも<秩序管理教団>を敵に回すことになってしまうんだよ?」

「実はな、それについては妾に考えがある。使


 そう言ってツバキは背負っていた背嚢はいのうを下ろし、中から何かを取り出した。

 それは、


「あ。油絵」


 そういえばツバキに、ルーナへのお土産に買った油絵を預けてたっけ――って、


 え⁉ その油絵は……⁉


「ちょっと待ってツバキ! それって⁉」

「いろいろと助言してもらった礼にな。あのあと、妾も買わせてもらったんじゃ」


 ツバキはニヤリと笑ってそう言うと、『』を、ボクが買った金髪の女の子が描かれた絵と一緒に、ルーナへ「土産じゃ♪」と言って手渡す。


 ルーナは金髪の女の子が描かれた絵を見て「わあ☆」と顔を輝かせるも、次いで『幽霊船長』が描かれた絵を見て「ぴっ⁉」と可愛らしい悲鳴を上げていた……。


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