18話 大会初日(1)

 翌日、大会が始まる。

特別席に座らされる。主に貴族が座る所だ。

幾つか特別席は別れており、王族専用も別にある。

会場には四、五万人ほどが入れそうな巨大な建物だ。


 闘技場の外観を眺めていた。

その建物の隣にもう一つ巨大な建物があって、

ここよりも行列が出来ていたのには驚いた。


 何の建物かと誰かに聞こうと思ったが、

クリステルが迎えに来たので、

流れるように特別席に案内された。


 クリステルが拡声する魔道具を付けて喋り始めた。

大会は第20回目。

定型文では無く、

クリステルの明るく、

コミカルな挨拶で会場を盛り上げていた。



 そこで今回の目玉となる刺客の説明に入った。

ギルドに何年所属とか割と細かく伝えていた。

私たちが紹介されて、立ち上がる。

意気込みを言う訳ではないが、

パーティーの中で二人ほど緊張していた。


 反応は人それぞれで馬鹿にする者、

真剣な眼差しで見る者と、

半々くらいで真逆の意見が多く飛び交う。


 基本その席に居れば、飲み食いには困らない。

注文はその辺を徘徊しているパニーガールに頼めばいい。

面白いと思ったのは獣人と人族のバニーガールが共存していた。


 ただ生理現象だけはどうしようもない。

席を離れてお手洗いに行くと、

ひと気の少ない廊下で変な男たちに囲まれた。

特に嫌な感じはしなかったので構えないでいると、一人が言った。


「あのー。ファウスト大司教様がお呼びですので、よろしければ……」


(なんだろ?)


「分かったわ」



 部屋に案内されるとお世話になった大司教が座って居た。

機嫌が良さそうだ。


「何かあったの?」


「まあまあ、座り給え。何か飲み物はいるかね?」


「要らない。要件を聞きたいんだけど?」



「……実はな、折り入って相談があるのだが……」


「相談?」



「この大会、是非勝ち上がって欲しいが……何処までいけそうかね?」


「さあ? ギルドの人たちとこういう戦い、した事ないから」



「ふむ。まあ、先ほどの続きなのだが。もし可能なら最後の試合以外はギリギリの戦いを演じて欲しい。

そして、試合が終わるごとに合図が欲しい。苦戦したら手のひらを顔に当て苦しむ様子を、

楽勝だったら手を高く挙げてアピールしてくれ」


「え?? 何故?」


「ゴホンっ……ゴホンっ……」


 咳払いの後、私をジッと見ていた。


「うん? もしかして知らないのか」


 そう言ってテーブルの魔道具を起動させると、

声が聞こえてくる。小さいが画面が映った。

何故か選手の姿ではなく、掲示板が映ってある。


☆☆☆☆☆


ラッキーズ(青)

①:2.11

②:16.30

③:17.53

④:21.91

⑤:43.83

⑥:34.49

⑦:79.69

⑧:87.65


アンラッキーズ(赤)

①:2.74

②:26.56

③:29.22

④:55.88

⑤:51.56

⑥:50.09

⑦:32.71

⑧:83.48



☆☆☆☆☆


『一回戦は【ラッキーズ】バーサス! 【アンラッキーズ】だぁぁぁあああ!』


『この試合どう見ますか?』


『初戦ですからね。お互いまだ力が有り余っている。コンディションは互角。

しかし、所属年数やパーティーのバランスから、【アンラッキーズ】がやや有利かと』


『う~ん、しかしですね。パーティー平均の値を見ますと、37.94倍、対41.53倍と。

【ラッキーズ】がやや人気。つまり、優勢と見ている人が多いようですが……』


『ああ~、やはりパーティー名ですかね~。力の差が無いならそりゃラッキーに入れますよ~。

しかし、これはあくまで予想、どうなるかは神のみぞ知るっ!』


『ありがとうございます。初戦なので、お互い雰囲気に吞まれないように頑張って欲しいですね』



 大司教が魔道具を停止させた。

どうやら勝ったパーティーの中で、

一番取得点が高い者が当たりになるシステムの様だ。

同点の場合は、二つを一つに合わせて計算をし直すらしい。



「……貴方……大司教でしょう?」


「はて? 招待されて、何もしないのは失礼だろう? 

それにこれは硬貨を一度、特殊な数値に変換している。これは金ではない」



「……なんか無理やりな感じがするけど」


「ははは、私は見知らぬ人間を観察して、慧眼を養っているだけだ。

自身に嘘を吐けないよう、数値を使い、それを証明しているに過ぎない」


「ふーん。じゃあ私の合図駄目じゃない?」


「それが本当かどうか、見極めるのが慧眼なのだよ。

それと勘違いしているかもしれないが、声をかけている参加者は君だけ。

そして、これはただの雑談だろう? 

知り合いを応援しているだけ。何処の誰が私を責められようか?」



(……まあ、片側の参加者に勝ってくれ。それと体調を聞いている感じか……ぎりぎり)


「手は挙げないわ。なんか恥ずかしいし」


「それでは……カレンの頭を撫でると言うのはどうだ?」


「まあ、それくらいなら」



「ああ……そうだった。四試合目で、優勝候補同士が戦うみたいだ。

それを見て感想を。使いを送るので、教えて欲しい」


「感想、ねぇ……」



 特別席に戻ると試合が終わろうとしていた。

アンラッキーズの最後の選手が場外へと落ちた。

ラッキーズの勝利だ。場外に落ちた三人は元気で、

ダウンしているのは三人、残ったのは二人。

一番点を持っておるのは青の①番の選手。

観客が大袈裟にリアクションをしていた。



 ダウンや場外になっても、次の試合も問題なければ全員参加可能だ。

現状のダメージや戦い方を見て、色々と分析している者が多くいる。

次の試合に倍率にも関わるのだろう。決勝は翌日に行われる。



 座って試合を見ていると、見知らぬ貴族令嬢がやって来た。

挨拶の時から嫌らしい笑みを浮かべており、

クリステルの表情から嫌いなのだろうと分かった。

名はゲルデ・ラムリー。伯爵令嬢だそうだ。


 どうやら嫌味を言いにいたらしい。

弱そうとか、こんな子供とか、頭悪そうだとか、品が無いとか、

体を使って等級を挙げているだとか、

元【ブレイブヒーロー】だとか言って来た。


 最後の言葉は少しイラっとした。

汚い言葉をカレンに聞かせるとは許しがたい。


 言いたい事を言い終わると、高笑いしながらゲルデは去る。

クリステルがぷんすかと怒っていた。


 私たちの試合は九試合目。まだまだ先だ。優勝候補は離れている。

参加者は予選を勝ち上がった、16パーティー。

優勝候補の反対側のブロックに、

私のパーティーが乱入する形で組まれていた。

これで参加パーティーは17になる。


 ちょっとあからさまな感じがするが文句が出ないところをみると、演出として。

もしくは大して最終結果には影響しないと思われているのかもしれない。

これが多分、試合の勢いが落ちている原因の一つなのだろう。



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