16話 クリステル・ハミルトン

 ギルドに行くと綺麗な服を着こなす、

この場に相応しくない金髪で青い瞳の女性がいた。

隣に騎士も凝視していたと思いったら微笑みかけて来た。


どこか見知った顔だと、ジッと見つめ返していると、

こちらに気が付き近寄って来る。


「アルマさん!」


 その女性が親し気に話しかけて来た。

周りが感心した様子で騒めいた。凄いだとか。

素敵だとか。色々聞こえた。



「……」


 こちらに来る前にカレンがこそっと耳打ちをする。


「ハディントン伯爵のご令嬢だよ、アルマ。

馬車が壊れてて、助けた人。クリステル嬢と副団長」


「あー、クリステル。久しぶりね」


「今……反応が凄く遅かった気が……? 

もしかして、私をお忘れで……?」



「まさかぁ。覚えてたよ」

(カレンが)



 何故ここに居るのか聞くと少し呆れていた。

クリステルは場所を移そうと、

用意した馬車にテキパキと乗せた。



 どうやら彼女は、あの時のお礼をしに来たらしい。

そういえば、そんな事を言っていた気がする。

豪勢な屋敷に招かれた。


 執事やメイドが機敏に動く。

何か行動を起こそうとする度、

全て先回りをされる。


 案内されるがままに、

柔らかそうなソファーに座ると、

紅茶が出て来た。

この雰囲気に慣れなかったが、

カレンが興味津々だった。

楽しそうに、辺りをきょろきょろとしていたので、

良しとしよう。



 本題だ。クリステルは前置きも無く、

家を贈ると言い出した。

紅茶を吹き出しそうになったが、耐えた。


「色々と調べました。今まで苦労されたのですね」


「ま、まあ……そこそこに……でも、家だなんて」



「そうですか?

宿屋だと隣の声が色々と聞こえたり、

ガラの悪い人とすれ違ったりと、

カレンさんにも悪影響じゃないですか?」


(んー。カレンのため、か)


「カレンは家が欲しい?」


「うーん……うーん……ちょっと欲しい!」



「ですよねー! カレンさんもそう思いますよねー!」

 


(そんなに金を出費したいの? 金も持ちはよく分からないわね)



「それで、ちょうど私の屋敷の近くに土地が余ってまして! 

近所の都市ベルはとても良い所で! 王都からも中々近く快適で!」


「……ええ」



 クリステルはどうやら私を近くに置きたいらしい。

でも、そんなに家に居ないと思うし、

遠征とかもする事もあるだろうと言ったが、

それでも気にしないと言っていた。


 余りにも目を輝かせ、

ぐいぐいと押して来る。

根負けした私はそれを受け入れてしまった。


 しかし、自分の帰る家があるのはいいと思ったので、

ここは楽しみに待つとしよう。




 当然時間はかかる。どんな家が良いか聞かれた。

カレンは庭が欲しいと言っていた。

私はお風呂とテラスとバルコニー。

それを聞いてクリステルは言う。


「……ふ、普通の家で良いんですか?」


「うん! あ、アルマ。部屋は二部屋あれば大丈夫だよねー?」


「そうねー。奇抜な色合いじゃなくて落ち着く感じが良いわね」


「ふ、二部屋でバルコニー? ……それでは最低でも二部屋あればよろしいですねッ?」



「じゃあそんな感じで。普通な感じでお任せするわね」


「お任せくださいな! 

ハミルトン家が手掛けるに相応しい物に仕上げましょう!」



 二部屋もあってお風呂とお庭付、

最高の贅沢の家になりそうね。

そんなこんなで、クリステルと雑談した。

夕食もご馳走してくれるらしい。



 その後、一緒にお風呂に入る。

わしゃわしゃとカレンを洗って上げると喜んでいた。

湯船に浸かると、

とろける様な声が出た。自分でも驚いた。


 広い浴場に笑い声が響いた。

暫くするとクリステルが少し歯切れの悪い様子で言った。


「あのですね。実はアルマさんにご相談が」


「相談? なに?」


「数日後に伯爵家主催の大会がありまして……」


「ああ、何故かギルドと連携してやってるやつ?」


「それに出てもらいたいと……」


 発端は自分たちの領が優れているか競った事から始まった。

領地お抱えの騎士団同士で試合をしていたが、戦力が露呈する。

それを嫌がった貴族が、ギルド同士の対決を考案したものらしい。


 ギルド側も貴族から支援を受ける事が出来るので、

お互いに協力している。

毎年、別の伯爵が主催となり大会を盛り上げるのだとか。

今はその盛り上がり権威を示している。


 とある年。

一人の令息が大会を盛り上げ成功を収めた。

それを見た他の伯爵が自分もと次々に真似。


 時間が経つにつれ、次第に令息令嬢の活躍の場に変化していった。

そして、今年はクリステルが選ばれたということだ。


 しかし、近年上位陣が代わりばえが無く、

試合の質も落ちて来て、盛り上がりに欠けているらしい。

なので、挑戦者を刺客という名目で送り込むパフォーマンスを考えた。

トーナメント式で優勝候補とは後半に当たる様に設定する。


「私、等級シルバーよ?」


「だからですよ! 今しか無いんです! ケヴィンが凄く褒めてました! 

『アルマはシルバーにするには勿体ない』って!」



「私が断ったらどうするの?」


「その時は仕方ないです。既に何人か候補は見つけてます。

でもその中で、一番盛り上がりそうなのはアルマさんかと思って!

それに優勝賞金は凄いですよ! 金貨一万枚です!」


(しっかりとやっているのね。

少し手伝いたくなったわ。これも何かの縁かしらね)



「賞金はどうでも良いけど、色々な人が出るなら面白そうね」


(カレンに戦闘経験も積ませる事も出来るし)


「アルマさん! それでは! 

後六人の候補の詳細を渡しますので、

そこから選んでくれれば!」


「え? 六人って?」



「あ、言ってませんでしたね。

自分のパーティーの中から八人を選んで戦う、パーティー戦です。

数が満たないパーティーでも大丈夫です。

この大会では他のパーティーと同盟が可能です」


「一時的なものなのよね? それにしてもパーティー戦。多少心得はあるけど……

人とは初めてね」


「怪我で一時棄権しても補充は無しなので、

そこもこの大会の見所です。

回復したら次の試合に出場可能ですが、

数で不利になります。

より長く戦えるパーティーを組む、

戦術等の工夫が必要です」


「分かったわ」


 お風呂から上がると、

ご機嫌のクリステルが紙の束をどさっと机に置いた。

並列に次々と置いていく。


 最初は(うわっ……)てなったがよく見ると、

性別、等級、役割と、既に別けていてくれているらしい。

ただ、個人の等級は無いので、

これはあくまでも目算に過ぎない。

彼女の従者の調べを参考に決めている。


 一番多いのはブラックとブロンズの等級。

そこから下の等級は穏やかに、

上の等級は急激に少なくなっていた。

とはいってもこれが全員では無いだろうし、

ゴールド周辺も思ったよりも多い。



 カレンがクリステルのペット、

角無し兎とじゃれ合っている。

角がある兎が殆どなのでかなり稀少な兎である。

それに元気をもらった私は紙束と向き合う。

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