9話  晒される真実

 自宅に帰り、ヴァイオレットの手当てをした。

沈黙を破ったのはヴァイオレット。


「おい、これはどういう事だ? 明らかな弱体化。

解呪されないんじゃ無かったのか?」



「いえ、何人であっても解呪不可能。

そこは間違いないと思います。

呪壺を使っても移せる技術持ちなんて、

大司教様レベルでも無理です」



「おいだが、司祭が居やがった。何か感づかれたんじゃないか?」


「皆さんは余り気にかけた事は無いかもしれませんが、

司祭様程度ならギルドによくお見えになります」



「ならどうしてソードテールですら倒せないの? 中級魔法すら撃てなかった」


「やっぱり、風邪か……」



「流石のソロモンさんでもその結論は引きますよ。

恐らく、体が疲れているのだと思います。大量に魔素と魔力を日々受けていれば、

それに耐えきれない。容量が無い……んー。

分かりやすく言えば魔力の暴走寸前ってところですかね」


「それじゃ、私たちはこのままってこと! 

ふざけないで! 今までどれだけ苦労して来たと思ってるの!」


「落ち着いてください。これは一時的なモノ。

もう少し鍛えれば私たちの容量が上がり、また何時もの様に戻ります」



「まっ、一時的な風邪みたいなもんじゃねぇか。

なら今の問題なのは、シルバー等級の雑魚ソードテールをどう処理するか、か」


「他の奴等に見られるのは駄目だから誰も雇えない。

国に動かれると隠せなくなる。早く討伐しないと」


「油断しなきゃシルバーなんて余裕なんだよ」



 ソロモンが作戦を話す。ヴァイオレットを囮にして罠にかけ、

その内に一斉攻撃で撃破という流れだ。


 ヴァイオレットは怒ったが、

利き腕欠損状態では何も出来ないと言われた。

これもパーティーの名誉挽回のためだと言い聞かせると、渋々納得した。


 魔物を弱体化させる薬を大量に購入。

落とし穴を仕込んだり、武器を大量に集めた。



 まずはヴァイオレットが薬を投げて魔物を弱体化させた。

追いかけて来るので逃げる。

そして、刃をむき出しにして武器を埋めた落とし穴へとおびき寄せる。


 ソードテールは腹部も硬く、刃物では貫けない。

ソロモンが一番柔らかい首を狙った一撃を放つ。

しかし、剣が弾かれ特に何も起こらない。


「嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ! うおぉぉぉぉぉおおおおぉおぉおお!」


 ひたすら切りまくるがまるでダメージが入る気配が無い。


「いくら何でも強すぎる!! 化け物だぁ!」



 尻尾の攻撃を見てノーマがソロモンを突き飛ばす。

彼女の腹部にそれが刺さり、重傷を負う。


「ひぃひぃぃいい!」



 それを見たソロモンが穴から必死に這い上がり逃げ出す。


「待って! 動けないのっ……助けて……ッ」


「うるさい! 知るかブスが!」


「なんで……私ソロモンを庇って。

それに貴方は私が一番好きだって言ってくれたじゃない……」


 もうそんな言葉は耳に入って無かった。

彼は自分が逃げる事だけに集中する。

ヴァイオレットが穴から無理やり腕を引っ張るとシビルが回復の魔法をかけた。


 そして、荷物持ちが使ったのと同じ、魔道具を投げ、何とか逃げる事に成功した。

一度家に戻るがソロモンは居なかった。




 彼は外に居た。ブラック等級の魔物に挑んでいた。

しかし、殺されかける。


「そんな! 全然避けれん! なんでだ! 

何時もなら当たってもダメージすら入らない雑魚だぞぉぉおお!」


 彼は近くを通りかかった、ギルドのモノに救われた。




 何日経っても討伐した報告に来ない【ブレイブヒーロー】たちに不満の声があがる。

もう誤魔化せないところまで来ていた。


 話を知っているギルド職員がオリハルコン等級でも勝てない魔物が居ると口を滑らせ、

噂が広がり事態が大きくなる。


 五日程で噂は都市に広がる。

四人はギルドに顔を出すと必ずひそひそ話をされるようになった。


「ブラック等級の魔物にやられてたらしいぞ」

「だろうな。レッド等級の魔物に勝って喜んでたらしい」

「え? じゃあ今までのは不正だったの?」

「だろうな……皆を騙してた屑だ」


 ぷるぷると震えながらその屈辱に耐える【ブレイブヒーロー】。

だが、ソロモンは耐えきれずに切れた。

レッドより一つ下。下から二番目のグリーン等級の女性を殴る。


「てめー! 今なんて言った!? 雑魚の分際で今俺に何て言ったんだぁぁあ!」


「い、痛い……だって本当の事じゃない!」


「おい止めろよ」


 レッド等級の男が腕を掴んだ。

怒りの形相でそれを振り払おうとするが、出来なかった。



「おいおい、俺はレッドだぜ? 一体どうしたっていうんだっ? 

元ミスリル等級さん、よぉっッ」


「ぶはっ」


 その男に殴られると彼は吹き飛ばされた。

何とか必死に力を込めると、上半身だけを起こせた。


「お、お前等! ギルドで暴力とかふざけんなよ!」


「先にやったのはお前だろうが!」



「マジかよ最低だなソロモン」「ゴミ」「屑が」「死ねよ」「よっわっ」「ダサ……」「嘘つき」


 近くに居た者が各々に吐き捨てる。



「そこまでだ……」



 その時、ギルドマスターが出て来た。

男は皆の前で宣言する。


「【ブレイブヒーロー】は本日をもって強制解散とする」


「は、はぁ! な、何を急に! カタストロフソードテールはどうすんだ! 死人が出るぞ!」



「ああ……それか。それなら通りすがりの女性が倒したそうだ。

その女性曰く、そのソードテールはシルバー等級程度だそうだ」


「!? なっ!? ……う、嘘だ! きょ、虚偽報告だ!」



「嘘ではない。その女性の報告、持ち帰った尻尾、残骸の大きさ、時期、他にも色々ある。

何より、その近辺にはもう調査隊を派遣し、調べ尽くした。間違え無い」



「そ、それでも俺たちが解散っていうのは!?」


「そうよ! 嫌よ! 解散何て!」


「そうですよ! そんなの横暴です!」


「たった一度の失敗で、今まで頑張って来た奴等にこんな仕打ちをするのがギルドかよ!」



「虚偽報告をしたのはむしろそちら側……

国を混乱に陥れた罪……解散で済むのは安かろう? 大人しく受け入れろ」



「う……そ……だ……俺の……栄光が……」


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