撮影

渡り廊下から見た庭。

庭から見た渡り廊下。


何の問題もなく撮影し終え、最後のトイレの撮影を終えた時だった。

ふと戸の内側を見ると、”開ケタラ閉メロ”と殴り書きされた張り紙がテープで張り付けられていた。

文字はボールペンで書かれたらしくかなりの筆圧で、一部破けている所もあった。


「……マジか……。」

朋美は思わずつぶやいた。


売り物件では普通、こういった物は全て取り外しているはずだったからだ。

何とかはがそうとしたが、テープは黄色く変色しており、セロファンは剥がせても粘着部分がこびり付き、どうやってもベタベタが戸に残ってしまった。

朋美はとりあえずその写真を撮影し、紙の写真と一緒に鮎川に送る事にした。


・・・


「とりあえず、こういう感じなんですけど」


「あー…これは、ちゃんと剥がさなきゃだね。

でも前来たときあったっけ?

俺もそこ担当した事あって、その時確認したはずなんだけど…」


「すいません、私もそこまで確認しきれてなくて、見逃してたのかもしれません。

でも、黄色くなってたって事は昔からのだと思うんで、売主の人も業者の人も剥がし忘れてたんじゃないですかね。」


「…なるほどね。

うーん…じゃあ悪いんだけど、できる限りきれいにしといてくれるかな。

こっちでもどうするか考えとく。ちなみにお客さんは来た?」


「いや…全くです。」


・・・


「はい、はい、わかりました。じゃあ、失礼します。」


・・・


新築物件でも客が来る事なんて、1日に2回もあれば多い方だ。

なのにこんな分かりにくくて塀に囲まれた中古物件、いくら旗が立っているとは言えわざわざ見に来る人なんて稀だろう。しばらく誰も来ない。

これからあの薄気味悪い二階へ行ってすべての雨戸を開け、トイレのベタベタを剥がした後、一階と二階全ての雨戸を再び閉めてから帰らなければならない。


いつもの事、ただそれだけの事がこの空間ではとても心細い。

たとえ忙しくても電気があり、周りに人がいる。

そんな当たり前の仕事風景の方が朋美は好きだった。

ただただ事務所で事務の仕事がしたい。

辻に嫌味を言われてもいいから――

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