逆転NTRの一例 side花園美月

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逆転NTRの一例 side花園美月

私、花園美月には忘れられない人がいる。



名前は高坂颯太。中学3年間同じクラスで、ずっと一緒にいた。私の、最初で最後の恋人。



小学生の頃から私は背が高く、周りから好奇の目を向けられ、時にはいじられ、面白おかしく遊ばれた。そこから私も周りを拒絶し始めた。

次第に私は暗くなっていき、中学に上がる頃には完全に1人になっていた。



しかしそんな私でも恋をした。



初めて同じクラスになった時、彼は1人孤立していた暗い私に話しかけてきた。疑心暗鬼になっていた私の心をほぐすような、眩しい笑顔。



初めて異性から、しかもかっこいい人にそんな笑顔モノを向けられた私は、直ぐに好きになってしまった。



彼はかっこよくて、可愛くて、明るくて、勉強も運動もできる。クラスの人気者だった。当然、モテる。ライバルは多かった。

しかし何とかして仲良くなりたかった。付き合えなくてもいい。そばにいたい。高坂くんは私にとって光。その眩しい笑顔を、もっと私に向けて欲しい。



そんな願いが届いたのか、私と彼は同じ図書委員になれた。図書委員は3年間通続して所属するので、来年クラスが変わってもここから3年間彼と関わりが持てる!



私はそのチャンスをモノにしようと、頑張った。彼と同じシフトに入った(競争相手が多くて大変だった)り、彼が読んでいる本を全て読んで話題を作って話しかけたり。無関心だった外見にも気をかけた。妹も、私の変化を喜び、手伝ってくれた。



元々分け隔てなく人に接する彼だが、心做しか私と一緒にいる時間を多くしてくれるようになった気がした。自意識過剰かと思ったが、どうやら違うようで、



「好きです。僕とお付き合いしてくれませんか」



なんと向こうから告白された。もう少し仲を深めてからと思っていた私は面食らったが、現実には間髪入れず了承した。



「はい。よろしく」



なんて取り繕ったが、心の中では喜びに喜んでいた。



それから学校以外でも一緒にいる時間が増えた。

映画や遊園地、水族館へのデートはもちろん、週末に2人で勉強会をしたりと、恋人らしいことを選んで多くやった。

相変わらず暗い雰囲気が抜けない私と2人でも、彼は楽しいと言ってくれた。

周りが微妙な目で見る中、妹がお似合いだと言ってくれたことがすごく嬉しかったのを覚えている。



私のコンプレックスである身長に対して彼に頬を染め恥じらいながら「その……高い方が良いというか……花園さん綺麗だし、見上げた時に僕をみてくれてる目とか、抱きしめられてる時の包まれる感じとか、凄い、吸い込まれるというか、魅力があるんだよ……」と言われた時には思わず口付けをしてしまった。



そこから更に好きになっていったが、3年生の夏頃、受験勉強のため1度別れることになった。方便ではなく、単純に互いの将来を思っての事だったので了承した。最後にと、私の方から強請って1度だけ肌を重ねた。彼は快く受けてくれた。お互い初めてで試行錯誤しながらだったが彼の体は強く美しく、幸せを感じることが出来た。彼のあの顔は今でも忘れられない。



私は無論、最後にするつもりはなかった。同じ高校に行けばまだ一緒にいられる。彼の成績は良かったので志望校の偏差値は高かったが、頑張った。彼との高校生活。隣にいること。ただそれだけをモチベーションにして努力した。



しかし足りなかったらしい。

私は落ちた。彼は受かった。



当然と言えば当然だが、簡単に割り切ることなどできなかった。それから私はまた少し暗くなった。塞ぎ込んだ。スマホの連絡は何も見なかった。学校でも彼を避けた。彼からの反応が怖かった。私は1人で気持ちを整理し、卒業式までには何とか復活することが出来た。だから帰宅後恐る恐る彼からのメッセージを見たのだが……



「なん……で……」



私は後悔した。彼がこれくらいで見限ることなどないのに。失望したとわざわざ送るわけないのに。彼を信じられなかった自分にもまた嫌悪感を抱く。



「あああ……」



彼は受験後直ぐにメッセージをくれていた。会おうと、また君と遊びたい、一緒にいたいと。

私が未読無視し続けていても、彼は辛抱強く、1日に1度は連絡してくれた。



だがそれは、2日前で途切れていた。



自分の愚かな行動のせいで、今度こそ彼を失った。その喪失感は凄まじく、ずるずると引きずっていた。私から連絡する勇気はなかった。資格がないと、自分を戒めた。



高校では再び1人になり、壁を作った。彼以外と話したくない。彼以外と接しないことで独りよがりな償いをしているつもりでもあった。



そこから大学へ行き、卒業し、社会人になっても、彼を考えない日などなかった。彼に、もう一度会えたら。



25歳になったある日、いつものように何も考えず郵便受けを見た時、中学の同窓会の知らせが入っていた。私の頭は飛び起きた。もう一度、彼に会える。



今度は、間違えない。今度こそ、彼を逃がさない。手に入れる。妹にも協力を頼んだ。意外にも了承してくれたことに驚いた。聞くと、当時から密かに想っていたらしい。更に驚いた。手伝ったら1度だけ貸してくれという言葉には顔を引き攣らせたが、必要なことだし、1度だけならと、渋々了解した。







「久しぶり。花園さん。元気にしてた?」



いえ。だけど今日あなたに会えて元気になったよ。



「久しぶり。高坂くん。もちろん。そちらこそ最近どう?」



ジョッキを交わしながら挨拶をする。



「高校上がってから連絡してなかったね。最近はやっと仕事が落ち着いてきた感じだよ。」



彼は優しい。私が彼を避けたことについて何も聞いてこない。再び後悔の念が募る。



「それとね、じゃーん!」



そう言って見せてきた左手の薬指には銀色の輝きが。



「え。それ「お!高坂お前結婚してたのか!」」



私が動揺する中周りは次々に彼に注目して祝福の言葉を投げていく。


は?なんで?いや、分かってる。あなたは昔から人気者。すぐにいい人ができるなんてわかってた。私じゃ相応しくないって、わかってた。


だけど。だけどそれと同時に。あなたは私以外の人と寝られるのかと。もうあの日を忘れたのかと。不愉快がそういう理不尽な怒りへと変わっていった。



「ありがとう。それと今の僕は高坂じゃないよ。市ヶ谷。市ヶ谷颯太だ。」



やめて。変わらないで。あなたは私の知るあなたのままでいて。



「私からもおめでとう。市ヶ谷くん。結婚したとはね。」



結婚しちゃったのね。



「ありがとう。花園さんにもいい人が見つかるといいね」



いるよ。目の前に。やっぱり諦められない。



「見つかってはいるのだけどね・・・」



私が再び覚悟を決めたた時、隣に居る妹から戸惑う声が聞こえてきた。



「美月・・・」



心配は分かるよ。でも大丈夫。今度こそ逃げる訳にはいかない。



「大丈夫。変えない」



「でも・・・」



妹を無視して彼の方を見ると、他の人と話しに行っていた。いつもこうだ。彼は縛っていないとすぐどこかへ行ってしまう。私は既にあなたに縛られている。あなたもそうなって。




1時間ほどたった頃、彼が帰ってきた。



「おかえりなさい」



「ただいまぁ」



酔ってるなぁ。可愛い。そんなだと悪い女に捕まるよ?私みたいな。



「顔が赤いね。水飲みなよ?」



飲んで。そして私の所へ来て。



しばらく待つと、彼は寝てしまった。






とりあえずちゃんと飲んでくれて良かった。



相変わらずいい顔してる。さて、行こうか。



「市ヶ谷くん寝ちゃったみたいだから送るね」



「お、送り狼か?て、いや市ヶ谷結婚してるから良くないんじゃ」



「大丈夫。市ヶ谷くんの奥さんとは友達でよろしく頼まれているから。ね。」



妹の真理に目を向ける。ちゃんとやれよ、と。



「そう。私と美月と3人で遊んだりもしてる。まぁ送ると言ってもすぐそこに車で迎えに来ているのだけどね。」



「そうか。ちょっと残念だけどまたな。市ヶ谷のやつ、浮かれて飲みすぎたのかな」



「ふふ、そうね。では、また。」




市ヶ谷くん……嫌だな、これ。



……颯太くんを背負って真理と店を出て、呼んでおいたタクシーに、3人で乗り込む。目的地は言わずもがな。




「美月・・・やっぱり・・・」



「あなたもしたいって言ったじゃない。どちらにせよ、もう片足突っ込んでるわよ。」



「うぅ」



もちろんメインは私だけどね。利用はしてやる。



颯太くんには優しくしようとしたけど、駄目だ。きちんと上書きしないと。






「んぅ、ふぁぁぁ」



「あら、お目覚め?」



上から彼を覗き込む。目をしぱしぱさせているのが可愛い。



「うわぁぁぁ!て、花園さん、?」



驚いて周りをキョロキョロする彼。自分がどんな状況にいるかわかったかな?まだ下着脱がされていないことがわかった彼はひとまずの安堵するとともに見るからに焦っているのがわかる。



「え、あ、その!」



「颯太くんが急に眠っちゃったからここに移動した。まだ何もしてないから安心して?」



「あ、ありがとうございま・・・」



そう、まだ、ね。颯太くんは30分ほど眠っていたけど、他にやることがあったからまだできていない。どちらにせよ、起きている彼がいいしね。



「あの、ありがとうございました。その、お金置いておきますね。そ、それじゃ「待ちなさい」えっ」



「ね、これ。」



先程真理に撮らせた写真を見せる。下着姿の私と、それにくっつくこちらも下着姿の颯太くん。結婚していたのには驚いたけど、既婚者というのが逆に彼を縛る鎖になってくれた。



「……どうしろと?」



今まで受けたことの無い颯太くんからの視線に私はゾクゾクくる。どんな感情だったとしても、今彼の目に写っているのは私。それがとても嬉しい。



次に睨まれたのは真理。私だけ見ればいいのに。



「とりあえずベッドに戻ろうか。あ、言ってなかったけどこっちは妹の真理。私もこの子も今日このために来たから。この子すごいんだよ?」



「終わったら消してよ、それ」



消すよ?この写真、ね。



だってもっといい写真かおが撮れるだろうから。







それから私たちは楽しんだ。やっぱり私と颯太くんの相性はいいんだ。真理の助けがあったのは悔しいけど、今日逃げなくて本当に良かった。彼が私を見てくれるだけで、私は法悦した。



沢山の写真を撮ったけど、そんなの必要ないくらい、彼は私にのめり込んでくれたと思う。だって、彼はあの日と同じ顔をしてくれたから。



今彼は妻の迎えの車に乗っている。あいつは颯太くんがついさっきまで何をしていたか知らないだろう。多少の優越感を感じる。



しかし、私が求めているのはそれ優越感では無い。彼はいつか私の、私だけの颯太くんになるんだ。彼の一番でなく唯一になる。私が欲しかったのは、彼の最初でなはく、最後。



もう、失敗しない。逃げない。逃がさない。



彼が手を振ってくれた。真理は戸惑うが、私は普通に振り返す。他の女なんてきにしない。むしろ私がいることを知れ。

彼は私のモノになる。



「美月……」



そう遠くないうちに。



「またね、颯太くん。」

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