第45話 不登校・高校中退者今昔

 大検の普及、不登校や高校中退の社会問題化等、教育事情の激変期だったとはいえ、この頃はまだ周囲の理解が得られないところが少なからずあった。

 それにともなう葛藤や悲劇がまま見受けられただけでなく、経験者たちの心にも傷が見られ、それゆえの悲壮感や切迫感も感じられた。

 しかしその「歎歌的」な様相は、大検と通信制高校の併用の一般化、不登校や高校中退問題のさらなる社会問題化とともに薄れていった。


 誰もが成り得る話だとなれば、周囲の目も変わる。

 そうなれば、当事者のほうも罪悪を感じる必要はなくなる。

 以前なら高校中退と聞いただけでその親とさえ距離を置いていた人たちも、そうですか大変ですね程度の反応をするようになった。


 これだけ進路に関する情報が世に出た以上、それを取入れてあとは淡々と次の道へと歩みを進めていけばいいだけのこと。そんな場合はこうしてこういうルートを活用すれば、あなたの道は開けるのですよ。それで十分。

 そこに愛情論や情緒論の入る余地などない。


 20年以上も時が経過すれば、社会も人も変わってしまう。

 かつて登校拒否の子どもたちを無理やり学校に連れてこようとした教師や大検について知りもせず虚偽情報や単なる憶測に基づく感想を述べていた教師らは、とっくに定年。その中には、相変わらずテレビと新聞が情報源の情弱と呼ばれる高齢者になった人も少なくなかろう。

 一方、当時登校拒否や高校中退を体験した人たちはすでに40代以上の中年。

 彼らのほとんどがインターネットを活用しており、情報にも敏感だ。元教師らが覚えていなくても、元子どもたちは忘れていない。

 彼(彼女)らが今も恨みや不信感を持っているかはともあれ、そんな元教師らを見習いなどするまい。見習おうものなら、たちまちネット社会の指弾でも浴びるのがオチ。そんな愚かなことを彼(彼女)らがするわけもない。

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