第6話  誰かが掃除機をかけている理由。①


「掃除機なんか、かけてへんよ」

彼女が言った。

 平和な僕の毎日に、いつも危機感をもたらすのは、彼女だ。今日も、彼女の一言で、僕は、問題解決に動き出す。


 

 この間から、ずっと、掃除機をかけている音がする。朝から夕方までの間で、けっこうしょっちゅう。

 クークークー……クークークー……クークークークークークークークークー……クークークー

 うるさい、ってほどじゃないけど、なんか気になってしまう。正直言うと、この頃、ちょっとイラッとするレベルになりつつある。

  

 このマンションのこのフロアに住んでいるのは、僕と彼女の他には、女性と男性が1人ずつ、計4人だ。僕は、掃除機は持ってるけど、主に、モップ派だ。それに、まちがいなく、僕ではない。なので、彼女に訊いてみた。

「この頃、しょっちゅう掃除機かけてる?」


「掃除機なんか、かけてへんよ」

 彼女は言った。

「何? ていうか、あなたがかけてたんとちゃうの? しょっちゅう、掃除機かけてるな、と思っててんけど。まあ、きれい好きやもんね」

「ちゃう。僕とちゃうで」

「じゃあ、誰?」

 僕と彼女は、顔を見合わせる。

 

「同じフロアの人とは、限らへんのちゃう?」

「そやな。上の階か下の階かも」

 同じフロアの他の2人に訊く勇気はない。ほとんど付き合いがないからだ。

 彼女じゃなかった。とりあえず、それだけは、よかった。ホッとする。


 でも、僕は、そこで、ホッとしてる場合じゃなかったのだ。ほんとは。

 僕の気づかない(?)間に、秘かにとっても大変なことが起こりつつあったのだ……



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