第4話  彼女が遠くに引っ越す理由。

 彼女が言った。

「私、明日、引っ越すの」

「えらいまた、急やね。引っ越すなんて、初耳やけど」

 僕は、めちゃくちゃびっくりしながら、でも、口調はゆったりと答える。

「そう。初耳のはず。今、初めて言うたもん」 

 彼女が、カフェラテを飲みながら、少しクールに言う。

「どこに引っ越すの?」  

 訊きながら、ちょっと胸がドキドキしてくる。

「うん。引っ越して、落ち着いたら、知らせるから」  

 彼女が、薄く微笑みながら言う。

「遠いの近いの?」 僕は、恐る恐る訊く。

「少し、遠いかもしれへん」

「そうなんや……」

 

 僕は、少なからずショックを受ける。 もしかして、この引っ越し話の続きは、別れ話につながるのかも……?

 気づかないうちに、僕は、何かしでかしていたのかも。頭の中で、これまでの行動を猛スピードでぐるぐる思い浮かべる。筋肉問題は、なんとか解決しつつあるし、ホワイトデーでは、2人でとってもハッピーな時間を過ごした。それからも、何度かデートをしたけど、ケンカをした覚えもないし、彼女は、プレゼントしたペンダントを今日もしっかり身につけてくれている。

 うう……。わからない。でも、やはり、僕は、きっと何かをやらかしてしまったにちがいない。


「そういうことなんで。また、連絡するね。今日は、明日の準備があるから、早く帰るね」

 彼女はあっさりそう言って、カフェラテのカップをテーブルに置いた。そして、

「あなたも、明日からのゼミ旅行、楽しんできてね。行ってらっしゃい」

 にっこり僕に笑いかけた。

 

 カフェの前で、彼女と別れて帰宅した僕は、しょんぼりとリビングのソファに座る。明日旅行に行ってる場合じゃないような気もしてくる。

 僕が引っ越しを手伝えないのを承知の上で、明日引っ越すというのは、彼女が、新しい引っ越し先を僕に知らせまいとしているのだと思える。やはり、遠くへ引っ越して、そのうち、徐々にフェードアウトしていく、そのパターンなのかも。

 

 眠れなくて、一晩中、僕は寝返りを打っては、ため息をついた。


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