ベルが鳴る。りんこ、りんこ。

エリー.ファー

ベルが鳴る。りんこ、りんこ。

 また、ベルが鳴った。

 明日も、ベルが鳴るだろう。

 聞こえるか、聞こえないか。

 どちらなのだろうか。

 分からない。

 しかし、夜がやってくる。

 頼むからベルを鳴らしてくれ。

 勇気が欲しいんだ。

 自分の想像する闇がやって来るとしたら、希望が必要になる。

 甲高い希望が欲しいんだ。

 人類のためにも必要な音色。

 必ず、誰かを救うと心に決めた、優しさが作り出す澄んだ音。

 通してくれ。

 この夜を、闇を、世界を、歩かせてくれ。

 何の指針もない、歪んだ常識にとらわれないようにするために、人生を作りだすきっかけを探しているんだ。

 そう。

 誰だって、同じだろう。

 悲しみに暮れるような、生き方なんて望んでいない。

 ベルの音色のように、遠くまで響き、感動を生む。

 そんな存在でいたい。

 誰かの光でありたい。

 影の中にいる、僕と、私と、あなたと、君と。

 そして。

 神と。

 歩くための時間。

 どんな時であっても、一人だ。

 どんな瞬間も、一人だ。

 どんな道を選んでも。

 一人だ。

 足音の数は、もう分からなくなってしまった。

 何故なら。

 たった一人でも。

 どこかに向かって歩む人間は、数えきれないほどいるからだ。

 誰も歩幅を合わせることはない。

 誰も同じ目的地を目指していない。

 誰も自分以外の誰かに興味がない。

 しかし。

 誰もが、歩み続けると覚悟を決めている。

 そうした先に、世界があることを知っているのだ。

 どんな日々が続いても。

 悲しみの中に、浮かぶ自らの死体を見つけても。

 大勢の絶望に押しつぶされそうになっても。

 社会に、世界に、世間に。

 嫌われる瞬間がやって来ても。

 前という方向だけは忘れたくても忘れられない。

 手紙の中にしまった、自分を示すための香水のように、情景が浮かばなければならない。文字のはねや、とめ、から少しでも自分という存在の影を見えるようにデザインしなければならない。

 紛い物であってもいい。

 似たような何かであってもいい。

 弱くても。

 のろくても。

 寂しくても。

 辛くても。

 悲しくても。

 遅くても。

 落ちていても。

 折れていても。

 壊れていても。

 治らなくても。

 直せなくても。

 下っていても。

 漏れていても。

 壊してしまっても。

 何であってもいいのだ。




 あなたでいて下さい。

 明日も、明後日も。

 あなたでいて下さい。

 一週間後も、二週間後も、一か月後も、半年後も、一年後も、五年後も、十年後も、半世紀後も、一世紀後も。

 永遠に。

 あなたでいて下さい。

 誰かがきっと、望んでいるから。

 誰かが、あなたという存在を目標にして、歩んでいるから。

 あなたが望んでいなくても、あなたが知ろうとしなくても、あなたが気付かなくても。

 そうして。

 世界は回っているから。

 勇気がなくても挑戦できる。

 力がなくても立ち向かう。

 足が遅くても勝負から逃げない。

 そんな、あなたでいて下さい。

 この手紙があなたの元に届く頃。

 あなたが変わってしまうこともあるでしょう。

 望まない人生を歩んでいることもあるでしょう。

 裏切られて壊れてしまっていることもあるでしょう。

 けれど、くじけないで下さい。

 あなたの頑張る姿を応援する者がここにいます。

 あなたの力になろうとする者がここにいます。

 あなたを知り、そして、これからも知ろうとする者がここにいます。

 どうか、どうか。









「こういう言葉を真に受けるバカって多そうだね」

「まぁね。本来、頑張るって仲間がいるからやることじゃなくて、仲間がいなくてもやってこそ意味があることだけどね」

「あぁ、その発言は、マジで哲学が濃くてキモいね」

「いやいや、最近ね。言われたから、思い出して言ってみただけだから」

「うっわ、怪しいなぁ」

「マジだって、マジマジ」

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