アメーバエイリアン
ボウガ
第1話 宇宙人ヨローヌ
「え?ご依頼ですか?」
電話口で、頭の禿げた細い目の眼鏡をかけたサラリーマンの男が、電話のおかれたパイプの折り畳み机と質素なパイプ椅子の傍、ものであふれたぼろぼろの部屋の一室で応答している。
「ええ、受け付けておりますよ、何でも、当方は何でも屋ですから……それで何をご所望でしょうか?え?宇宙人?」
5,6ほど列をなす折り畳み机の向こうで人影がうごめいた。が、人影というにはあまりにもたよりなく、それはまるでおぼろげな人の影、そのものだった。決まりきった形がないように太った体型になったり、猫背になったり、細長くなったり、それにあきるとこんどは、顔で芸を披露しはじめる。ひょっとこ顔の女になったり、子供の用にすねた婆さんのような顔になったり、貫禄があるのに泣きじゃくる大人の男の顔になったり。
電話口の男がそれにきづき、ぷぷぷっと噴き出して、すぐに真面目な顔に戻った。
「え?ええ、アメーバ型宇宙人は私どもの一押しの商品でして、え?商品といってはかわいそうだと、ええ、それもそうですね、すみません、なにせ付き合いがないものでしてあの日巨大な宇宙船が地球と合体して以降……あ、すみません、話がながくなりました、明日の6時以降ですね、はい、伝えておきます、何も問題ないですよ」
アメーバ型の人影は、小さな子供になって机の上でとびあがった。静かにしろ、とサラリーマン風の男が手を煽る。
「ええ、彼はとても人がいい子で、気遣いもできて、完璧な人間です……まあ、ただひとつ心配があるとすれば〝完璧すぎる〟ことですかね、もしかしたらお客さんも〝クセ〟になるかも、あはは、すみません、ええ、わかりました、ところでお客さんはどこでうちのサービスをお知りになられましたか?ええ、サービス向上のために、もしよければお聞かせ下さい」
〝ガチャン〟
しばらくの会話の後にニコニコして、セールスマン風の男が、アメーバに語り掛けた。
「仕事だよ、明日―まあ、今回も〝お得意さん〟を作るのは難しいと思うけど、よろしくやってよ〝ヨローヌ〟ちゃん」
そうして男が外を見る、頭上には地球の半分を覆う巨大な宇宙船があり、街中には、何の変哲もないように、様々な格好の宇宙人が街を歩いていた。
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