第五章 深層編
第123話 虜囚と処刑人
出発当日
十階層の階段前にはルセインにガイブ。それにコボルト族の祭りの面を被ったゴブリン三十匹が整列している。見送りに来たのはギブとギョウブ他、護衛の兵士が数名。昨日見かけたガイブの妹は見送りには来ていないようだ。
「ルセイン、昨日は済まなかったな。妹は来ない安心してくれ」
「安心ってお前。こちらこそ悪かったな、気を使わせたようで」
家で別れは済まして来た、安心しろとの事。ルセインは申し訳ないと思いつつガイブが探索に参加してくれた事に感謝する。
「ルセインさん。ゴブリンのメンテナンスは完璧です。本当に三十匹で良いんですか?」
「戻って必ず全員連れて行くつもりだ。大事に保管しといてくれ頼むよ」
(ゴブリン百人では探索の邪魔になるだろうしデュケスを連れてくとなると魔力の問題もある。洞窟での探索は三十匹程がいいだろう)
「ルセイン殿。もし、二十一階で何の成果もなく、外に出れなかったとしても、我々は貴方を仲間として迎えるつもりだ。遠慮なく戻って来てくだされ」
温かい言葉をかけているつもりだろうがさり気なく恐ろしい事を言っている。ゴブリンを退治して以降、ギョウブの狸ジジイ化が進んでいるのは気のせいだろうか?
「忘れ物はありませんか?」
これから生きて帰ってこれるかわからない探索に「忘れ物はありませんか?」である。ルセインは子供のピクニックにでも行くようなギブの口調に思わず口元を緩めてしまう。
「いや、何もないよ。協力感謝する」
別れを終え、下層への階段を降りる。降りた先の様子は十階までと様子は変わらない。しかし、コボルトやゴブリンなどの生活の一部を垣間見えた十階までとは違いどこか無機質な感じが窺える。この先しばらく行った所に魔物避けの結界があるはずだ。
「そういえば、敗走したゴブリンもこの下にいるのかな?」
「そうだろうな。けれど奴等が俺たちを襲ってくる可能性は低い。ゴブリンも生きるだけで必死だ。復讐の為に命を張ったりはしないだろう」
言われてみればそうである。ただ、面を付けているとはいえ、かつての仲間を三十匹も連れ歩いているのである。恐れをなして逃げてくれればよいが復讐心を燃やし襲いかかられては困る。
「ゴブリンの使役にはお前の魔力以外は必要ないのか?」
「そうだな。俺は魔法が使えるわけではない。自分の魔力で純粋に動かしている訳ではないんだ」
「うむ。難しいことは分からないが、一日中動かしていても問題はないんだろ?」
「あ、ああ。そうだな」
よく考えてみれば極端な省エネである。普通の魔法使いが使う魔力で考えるとゴブリンとはいえ三十匹を苦もなく使うのは少々おかしい気もする。死体を使役すること自体がおかしな事ではあるが、その辺もネクロマンサーならではのカラクリがあるのかもしれない。
(前方を歩くゴブリンにも問題はないか)
歩みは若干遅めではあるが全ゴブリン問題なく使役できている。ゴブリンの三分の一をポーター兼遠距離攻撃に、残りの三分の二はタンク兼アタッカーである。
「着いたぞ」
特に問題もなく目的の場所へと着く。魔物などに会う事もなくゴブリンの攻撃も受けることは無かった。
下層へ降りる階段の両端に巨大な石像が立っている。石像はそれぞれに違う形の盾を持ち、神と獣の入り混じったような見た目である。
もしかするとコボルト族が祀る神なのかもしれない。石像の間を僅かな薄い光が絶え間なく走り、ルセインが触れてみるとピリピリと肌が痺れた。白銀騎士団を攻めた際にミドガーが解除した結界を思い出す。
「ギョウブさんは特に問題なく下に行けると言っていた。本当に大丈夫なんだよな?」
「ああ。通り抜ける分には問題ない。戻るときには解除が必要だ。俺たちが下層へに行った後に兵士を配置してくれる筈だ。それについては心配ないだろう」
ゴブリンを先頭に下層への階段を降りる。十二階層は十一階階層とは大きく異なり全てが石材でできた空間である。
今までいた線虫や甲虫などの生物もおらず無機質な空間が広がっている。剣を振るうのには問題ないだろうがゴブリンの前衛が横に広がり切ることは難しい。罠や不意打ちには特に気をつけたい。
「それにこのウォールランプはどう言う仕組みなんだ?」
通路の光源が途切れない程度に壁に掛けてある灯り。十一階まではポーターのゴブリンに松明を持たせて灯りを確保していたが今後は必要なさそうだ。
「ダンジョンは通常では考えられない事が多いとギョウブも言っていた。慣れていくしかないだろう」
通路を進んで行くと大きな扉の前にたどり着く。扉は金属製で無骨な作り。中では金属のようなものを引きずるような音が聞こえる。
「ここを通れって事かな。ガイブ準備はいいか?」
「マカセロ」
ルセインはゴブリンを密集させ咄嗟の攻撃に備える。ドアに手をかけ、力いっぱい扉を押す、重苦しい音を立て扉が開く。
扉の先には虜囚と処刑人が一人ずつおり、虜囚は鉄仮面を被り、囚人服にそれぞれの手には鎖が付いている。処刑人は目元だけくり抜かれた黒い袋のような物を被っており、革で作られたプロテクターを上半身に身につけ、大きな焼きごてのような物を持ち歩いている。
「なんだこいつらは? とりあえずはあの焼きごてに気をつけろということか」
焼きごてからは蒸気が上がり触れた際には大きな焼印を入れられるのは間違いないだろう。虜囚と処刑人がルセインとガイブを視界に収めると一斉にこちらへと走り出す。
「問答無用で襲ってくるようだ! 気をつけろよ」
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