第114話 本気のガイブ
ブリザーブドドラゴンの
(ギブには使うなと言われてはいるが六匹をアイテにしなくてはならない。オレはトウチャンをコえなくてはならない)
ギギギッ
骨が軋む音が響く。体の肥大化、犬歯がより露になり、逆立った赤毛は立ち上がり毛先が伸びる。
「ウゴォォォォォォ」
踏み込んだ地面に大きなクレイターができると真正面にいる化け百足の体をガイブが貫く。
「ヌゥン」
そのまま壁面を蹴り上げるとショートソードで今度は化け百足の頭を貫く。しかし、ショートソードがガイブの力に耐えきれずにへし折れ、次の攻撃に移る事ができない。すかさず化け百足はガイブに向けて一斉に超高圧の水の礫(つぶて)を吐き出す。
ボッボッボッボッボッボッ
しかし、その場にガイブの姿はない。咄嗟に死んだ化け百足の下に潜り込み攻撃を全て躱したのだ。
(す、凄すぎる。今の力、ガーランドを越えるかも知れない。しかしあの異常な肉体強化……長く持つわけがない。急いで加勢しなくては!)
ブレスで動きが鈍くなったゴブリンを爪と体当たりで次々と屠っていく。しかし後方から次々とゴブリンが現れ、その勢いを止めることができない。
(くそっ。これでは加勢に迎えない!)
礫が勢いをなくすと場は静まり返る。ガイブの姿が消え、どこにも見当たらない。
ヒュュッ!
ルセインの前を疾風が駆け抜ける。
(ガイブ!)
ガイブが先程倒したのはいずれも後から参戦した二回り小さい化け百足である。ガイブが次に狙ったのはアブミの仇と考えられる内の一匹の化け百足である。
ドンッッ!
低い音と共に化け百足の顔が陥没する。
「コレデ、三匹!」
ガイブは脚を踏みだし空中に飛びあがろうとする。
ザザザザザザッ ズシュ!
何かが土から生成され突き破る音が響く。地面からは十を超える土槍が生えており、よく見ればその内の一本がガイブの脚を貫いていた。
「あれはグモード!」
化け百足の腹の陰から数匹のローブ姿が見える。ゴブリンメイジだ。ガイブは脚に突き刺さった槍を砕くと残された脚でゴブリンメイジの頭を素手で打ち砕く。
「ルセイン……限界だ」
その場に倒れ込むガイブ。今の傷で限界点を早めてしまったようだ。ガイブは倒れ込むと同時に口から体液を吐き出すとそのまま小刻みに痙攣し始める。
「クソっ! このままでは!」
ガイブを救出に向かいたい。しかしゴブリンの勢いは途切れる事はない。化け百足がガイブを囲む。
すぐさま攻撃を加えられてもおかしくない場面で親玉と考えられるゴブリンがガイブを見下ろす。しばらくガイブを見下ろし、名残惜しそうに一言だけ声をかける。
(やばい、やばい、やばい)
化け百足の頭がガイブの頭上に持ち上げられる。その矛先は確実にガイブを捉えており、数秒後には頭がガイブに向けて振り下ろされるだろう。
ガギーーン
化け百足の顔に突き刺さる投擲。ルセインがどこから飛んで来たものか振り返るとそこには天井の扉より降りてくるコボルトの軍勢であった。
「ルセインさん、ガイブ! 遅くなりました」
次々と降りてくるコボルトの兵士に混ざりギブがこちらに駆けてくる。コボルト兵は化け百足に投擲をしつつ大半はゴブリンに向かい小競り合いを始める。
「ウォォォォォォォ」
ルセインも気力と体力を消耗しているがブリザーブドドラゴンで残りの百足に飛び込む。
ドッ
小さい化け百足を弾き飛ばすが残りの化け百足に押し返されガイブを救いに迎えない。しかし後方から煙幕のようなものが投げ込まれると、化け百足の周辺は煙で巻かれコボルト数名がガイブの救出に成功する。
「ガイブ、大丈夫か?」
煙幕に巻かれ、一時的に戦闘が膠着している隙を見計らい、ルセインはガイブの元へと向かう。
しかし、ガイブからの返事はない。痙攣こそ収まっているが目は虚であり、とてもこれ以上戦える状態ではない。
「ガイブはこれ以上戦えません」
「ああ。よくやってくれた! これからは俺の仕事だ」
「ルセインさん、これを」
ギブが合図をすると後方から運ばれてきたのは棺サイズの作りの良い箱である。
「ありがとう助かるよ」
「後はこれを口にして下さい」
ギブに渡されたのは濁った色をした丸薬である。あまり口にしたくない色ではあるが緊急時である。ルセインは丸薬を一気に飲み込む。
「一時凌ぎですが体力が回復します」
「ありがとう」
箱をドラゴンに積み込むとルセインは勢いよく魔力を流す。煙幕がはれ、戦場の視界がクリアになっていくルセインの前に三匹の化け百足が姿を現した。
「今度は俺が相手だ。百足野郎」
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