第105話 長い一日

「ギョウブさんお待たせしました」


 目の前には体を横にしながらこちらを向くガイブ。先程の惨事を目の当たりにしたギョウブはややお疲れのようである。


「先程ルセインさんが仰っていた収穫の件を伺っても宜しいですかな?」


 やってしまった。ゴブリン二号の作成に夢中で収穫の話の件をすっかり忘れていた。


「も、申し訳ありません。興奮して我を忘れておりました」


「興奮ですか……。まぁ人族には色々な者がおると聞いておりますので。気にしないで下さい」


 ルセインは顎に手を当てると自分が見たもの、それに対しての自分の考えをまとめる。


「俺としてはあの百足はゴブリンに操られているのではないかと考えています。体に繭のような物が幾つか着いていました。その中にゴブリンがいるのかもしれません。それと間近であの百足を見ましたが目の部分を縫い付けてあるように見えました。あれも行動に制限を付け、操る為の条件の一つなのかもしれません。ちなみにギョウブさん達はあの百足がどのような魔物で何でゴブリンに味方しているか分かりますか?」


「いえ、私どもも下層にいる魔物くらいの認識しかございません。ゴブリンと戦うまでは上層に登って来るような事はありませんでした。ゴブリンについてもあまり情報はありません。たまに斥候を捕らえることがありますが、先程のゴブリンと特段変わったことはございません」


「なるほど。話は変わりますがガイブのあの強さは驚異的です。考えたんですがガイブの力を主力として、敵を撃ち破るのは難しかったんですか?」


「ガイブはこんな姿をしていますが人の年齢にすると十五歳ほどの子供です。以前の戦いには参加しておりませんでした」


「十五歳!」


 若さ故のぶっ飛んだ行動だったのだろうか? 少しガイブの事を分かった気がする。ギョウブさんもガイブを持て余しているのだろう。


「はい。十五歳ですが最強のコボルトです。今(・)は(・)ガイブに一対一で敵う者はいません」


 ギョウブの言葉に少し嬉しそうなガイブ。しかし、何かを思い出したのかすぐにいつも通りの表情に戻る。


(ガイブが最強とはっきりと言うってことはコボルト族にガイブ以上の戦力を望めないということか)


「ちなみにコボルト総戦力とゴブリンの総戦力を伺っても宜しいですか?」


「はい。我々の戦える者は五百程。ゴブリンの総力は詳しくは分かりませんが恐らく二千程ではないかと」


 いくらゴブリンとはいえ、戦力差四倍で真正面から戦って勝つのは難しいかもしれない。


「戦力差四倍にあの百足が相手にいるんですね?」


「はい。ゴブリンは繁殖が早い為、それ以上いるかもしれません。それと百足は全部で三匹いるはずです」


「三匹ですか!? あの化け物が三匹……」


 知りたくなかった真実が明らかになる。コボルト側が勝利する事などできるのだろうか?


「トウチャンがイキテイレバ」


 ボソッとガイブが呟く。気にはなったがガイブの辛そうな表情を見るとそれ以上何も聞けない。三人の間に沈黙が流れる。


「状況は把握できました。俺も自分の中で色々と整理したい。今日は休んでも良いですか?」


「もちろんです。部屋を用意してあるのでこちらにどうぞ」


 ガイブを残し二人は部屋を出る。しばらく歩くとギョウブがぽつりぽつりと過去の話を始める。


「以前のゴブリンとの戦いでは相手の化け百足は全部で六匹いたのです。その半分をガイブの父が倒しています」


「三匹を一人で? とんでもない強さですね」


「はい。もし真正面から戦ったら、百足は奴一人で退治していたかもしれません。それほどの強さを持っている男でした」


 あの百足を一人で六匹。話が本当だとすればランドルフを超える強さかもしれない。


「でも、今はガイブが一番なんですよね?」


「……はい。惜しい漢を失いました。力だけでなく群れを率いる才もありました。時が来れば異種族とはいえ、この群れの王を任せても良かったでしょう」


 秀でた戦士ほど早く死ぬ。人の世もコボルト族も大きな違いはないようだ。


「女子供を守るため、無理をして戦闘を行い致命傷を受けてしまったのです。そして、その守った者達の中に当時まだ小さかったガイブもいました。ガイブはあの時の自分が父親の枷になってしまったのではないかと考えています」


「臆病という言葉にあれほど反応したのはその為だったのですね」


「はい。あの時は私も軽率でした。ガイブがあのような行動に出るとは……」


 ガイブの百足に対する想いは俺の想像以上なのだろう。戦いの際にはガイブが暴走しないよう作戦を考えなくてはいけない。新しい情報を手に入れ、課題ができたところで部屋の前に着く。


「ここがルセインさんの部屋になります。ゆっくり休んでくだされ。明日また使いの者をよこします」


「ありがとうございます。俺の能力とガイブの武力。色々考えてみます」


 洞窟に訪れ数日。ダンジョンで一番長い日が終わった。

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