第103話 岩モグラ
その後の会話で分かったのだが、ギブとギョウブがガイブの作戦を止めようとした際に、ルセインの言葉を《臆病》と訳したようだ。それに激怒したガイブは自分の力を示すためにルセインを連れこの無謀な戦いに挑んだというわけらしい。
(それにしてもこの獣人はイカれている)
「はぁぁぁ」
盛大なため息をつくルセインとは対照的にガイブは晴れ晴れとした表情をしている。
「この後はどうするか目処は立っているのか?」
「マカセロ」
この絶望的な状態を見て何を任せれば良いのだろうか? ルセインはガイブを担ぎドラゴンに騎乗する。
「アッチダ」
とんでもないことに巻き込まれた。ガイブの指示に従い移動を開始する。どこに向かっているか、どのように上層に向かっているかを尋ねるが先ほどからガイブの発する言葉は――
「マカセロ」
の一言である。幸い、化け百足やゴブリンには出会わない。痕跡を確認できる中、百足に出会わず済むという事はガイブが臭いや勘を頼りに敵を避けて移動しているという事であろう。感情的にならなければ頼りになる奴なのかもしれない。
「アッタゾ」
通路の先には直径十数メートルといった大穴。左右は岸壁に囲まれどこかへ抜ける扉もなければ道もない。穴だけがある行き止まりである。
「ココニトビコメ」
「えっ?」
「キコエナカッタカ? トビコメ」
頼もしいと言う言葉は撤回する。やはりこいつはイカレ獣人だった。
「ハヤク。マニアワナクナル」
(間に合わなくなる? 何かあるのか?)
ルセインが決意を固められず戸惑っているとガイブが顔を上げる。
「ムカデガキタ」
「何っ!? くそっ! もうどうにでもなれだ!」
ルセインがドラゴンの体ごと大穴に飛び込む。内臓が浮き上がる感覚。ドラゴンから体が離れないように必死にドラゴンの背中に掴まる。
「おい! お前も力を込めて掴まってくれ。俺だけの力でお前を支えきれない」
「ムリダ。スカンダヲツカッタラ、オレハムリョクダ」
(自分で言うなよ)
「デモ、マニアッタ」
間に合ったと言ったのだろうか? 風を切る音に混じって何か弾ける様な音が聞こえてくる。ルセインが耳を澄ますとどうやら下から聞こえてくるようだ。
「何が起き――」
ドンッ!!
浮遊感がなくなり急速に何かにドラゴンが持ち上げられる。
「な、何が起きてるんだぁぁぁ」
視界が急に開けると同時に水飛沫がルセインの顔に当たる。
視界の先には複数の松明。ルセインが顔をあげると一斉に鍵爪付きのロープが投げつけられる。再び体が内蔵の浮く気分を感じる前にドラゴンの巨体ごと松明の前に引き寄せられた。
ドンッ! ザザザザザザッ!
「……い、生きてる」
先程の水は……間欠泉か? ガイブは水が噴き出るタイミングをわかってたのか。体を起き上がらせると心配そうにこちらに駆け寄るギョウブ。
「大丈夫ですか!」
なんとか命を繋いだらしい。
※
「……助かったのか」
ここはルセインの拠点としていた場所近くの崖である。ガイブはこの場所を知らなかったはずだ。あの短い時間で間欠泉とこの場所を結びつけたのだろうか?
「本当に頭が良いんだか、悪いんだか」
「どうされました? お怪我はありませんか?」
ギョウブが心配そうにこちらを覗き込んでくる。
「はい大丈夫です。そういえばガイブは?」
「あの馬鹿者は部下が運んで行きました。ガイブが迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
「いやいや、良いんですよ。収穫もありました」
「それなら良かったのですが。私共もルセインさんがいない間に収穫がありました。これからの話もございます。食事を兼ねて先程の部屋に向かいましょう」
(食事だと! 久しぶりのちゃんとした食事に心が躍った。しかし、コボルトが作る食事だと思い出しすぐにテンションが少し下がる)
縄梯子を降り、応接間の長テーブルへと向かう。長テーブルは駆り出されていた兵士が先に食事をしており、端の席には二人分の料理が用意されていた。テーブルには何かの肉とパンが置かれておりルセインの肉には塩が振りかけられていた。
「お口に合えば良いのですが」
何の肉であろうか? ギョウブに聞いてみたいが用意されている料理の材料を聞くのは失礼な気がする。火は通っているし、匂いを嗅ぐと食欲をそそる香りに舌の裏より唾液が分泌される。
「よし! 頂きます」
肉を一切れ口に運ぶ。ジューシーな肉汁が口の中に一瞬で広がる。しかし肉はあっさりとしている。食感も良い。塩味がよくあっており、口に運ぶ手が止まらない。
「美味い!」
「ほっほっほっ。お口に合って何よりです。我々はあまり味付けはしませんが人族のルセインさんには近場で取れた岩塩を使用しております。良ければおかわりをどうぞ」
「頂きます。久しぶりのまともな食事です。あの……この肉ってなんの肉なんですか?」
「はい、これは岩モグラでございます」
「モグラ? モグラって……美味しいんですね。俺が食べた中ではフォレストボアが食感として近いでしょうか? 俺はフォレストボアより断然岩モグラが好きですけどね」
積み上げられる皿。思わぬ美味に、しばし戦いの事を忘れ、舌鼓をうつ。
「はぁ~。もう食べられない。ご馳走さまでした」
口を布で拭うとすぐさま腹をさする。ギョウブもルセインの反応に大満足のようだ。
「それではルセインさん。お互いの情報を交換したいのですが宜しいですか?」
ルセインは表情を引き締めるとギョウブと向かい合う。
「まずは私から。ルセインさんが拠点としていた場所を部下と共に徹底的に探ってみました。地下に繋がる扉が2つ。土砂に埋もれて通路が3つ。崖はまだ調査中ですが一部が間欠泉と繋がっているのをガイブとルセインさんのおかげで確認できました」
そこまではルセインも把握している。ギョウブの顔を見るとまだ何かあるという顔をしている。
「その中でも気になったのは土砂に埋もれていた通路です。その一つを調べていた所、何と隠し通路を見つけました。通路は狭くゴブリンが一匹通れる程度の幅です。そして――」
ギョウブが部下に合図を出すと、手と体を拘束されたゴブリンが一匹連れて来られる。
「斥候と思われる者を捕まえました。我々ではゴブリンの言葉は分かりませんので何を企んでいるのかは不明です」
「通路はどうされるんですか?」
「先程の騒動で敵方にこちらの動きもばれてしまっているかもしれません。禍の元にならぬよう潰してしまおうと考えています」
通路もコボルトやルセインが通れない上にこちらの動きがばれているなら罠も仕掛けられているかもしれない。潰してしまうのがベストな気がする。
「そのゴブリンはどうするんですか?」
「使い道がございませんし、このまま処刑してしまおうと考えております」
ルセインは悩むような仕草を見せるとギョウブは話すのを止め、ルセインの考えがまとまるのを待つ。
「ギョウブさん。よければ処刑する前にそのゴブリンを俺に任せてもらえませんか?」
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