第552話 トリアンの住民慰撫3

 ユリアンネは継ぐ予定であった書店“オトマン書肆(しょし)”が無くなったが、元々トリアンで親の後を継ぐ予定だったのは、その他には工芸屋の長女カミラ、宿屋の長男ジーモントだけである。

 ヨルクは鍛冶屋の次男、ゾフィは皮革屋の次女、シミリートは武器屋の三男で衛兵に。ドロテアはビザリア神聖王国の孤児から魔術師団員になっていたが、今はユリアンネの戦争奴隷である。


 話題に上がっていたように王都に未練がある者も居るが、カミラとジーモントはそろそろトリアンに腰をすえるように親が希望する可能性がある。

 シミリートは、もう一度トリアンを出るならば衛兵を辞職する必要があると思われる。


「そうだな、もう少しこのままで」

「せめて独立騒動がおさまるまではこの秘密基地で一緒に」

「……そうね」

 先送り感があるが、まだもう少しだけ皆と一緒に居たい仲間達。

 ユリアンネは前世で大学生活の経験が無いが、就職前の大学生はこんな感じなのかと思ってしまう。


 翌日、トリアンの街中は落ち着きを取り戻そうとしている頃、マンファン分隊長が秘密基地に飛び込んでくる。

「すみません、ユリアンネさん!助けてください!」

 話を聞くと、小山の上の領主館を拠点にしている王国魔術師団や騎士団の人達が次々と倒れているらしい。

「症状を踏まえると、フスハイム子爵の屋敷で発生した事態のようでして」

「では、毒ということですね。その人数であれば私1人では手に余ります。父ラルフ、そして薬師仲間の皆さんにも手伝って頂かないと」

「単なる解毒薬ではなく、即効性がある解毒ポーションでないと」

「では、その方々に素材や完成品の解毒薬だけでも持参するように手配をお願いします」


 マンファンは連れてきていた配下の者達に手配を指示する。

 基地にいたカミラ達も手分けしてラルフや他の薬師に連絡してくれることになる。

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