第471話 トリアン北部のとある屋敷

「エードルフ、いったいどういうことなのだ!」

「インガルズ様、どうか落ち着いてください」

 トリアン北部の斜面にある貴族街。そのとある屋敷で怒りを露わにしているのは、ストローデ領の領主代行だったインガルズ。領主であるインリート・デンフルト・フォン・ストローデ侯爵の弟であり、ストローデ領の独立の先導者のためストローデ国王のつもりである。

 一方、彼に怒られているのはエードルフ・シャイデン男爵であり、以前から黒い噂があり、“闇ギルド”所属の者を私兵にしている男である。


「落ち着いていられるか。独立を宣言したものの、ストローデ全体が一つになるどころか、王都になるトリアンですら独立に一体化できていないではないか。このままではデレックを旗印にするアーロルトたちの勢力に負けてしまうだろう」

「いえいえ、デレック様はまだ12歳で成人もしておらず、フスハイム子爵など少数派。インガルズ様の足元にも及ばない小物ですから」

「とはいえ、独立宣言後、お前の私兵たちがトリアン内で行った徴集の名の下の略奪行為ばかりが目立ち、住民たちの賛同も得られていないというぞ。この街を支えるはずの冒険者たちも嫌気がさして逃げ出し、それにより物が売れなくなった不満ばかりで」

「略奪など。敵対している衛兵たちが騒いでいるだけですよ」


「それに、モンヴァルト山脈の閉鎖は成功しているではないですか。王都からの軍勢派遣もできず。まぁ王都の部隊は南の真モシノム大公国、北のピザリア神聖王国への対処でいっぱいだったはずですが」

「それも時間稼ぎしている間にストローデ内の軍勢を一本化して、モンタール王国軍を撃退する準備のためだったはずだろう。なのに、衛兵団だけでなく金虎騎士団も銀虎騎士団も動かないではないか。ストローデ内の代官たちも軍勢を率いての集結もしてこないし」

「騎士団たちはほっておきましょう。特に銀虎騎士団は冒険者が減った分の魔物討伐をしているだけです。その成果は我々に対してきちんと納品されておりますし、敵が来たらそちらに注力するでしょう。代官たちも、具体的な敵が現れるまでは待機して貰った方が、兵糧の消費もなくて効率的です」

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