第468話 仲間たちの逃げ場

「ユリー、助けてよ」

 久しぶりに開店している“木漏れ日の雫亭”にゾフィが駆け込んでくる。ユリアンネは店頭には立たず、奥で調合をしているところであった。

「あらカミラ、あなたも来ていたの?」

「なんか同じ要件のようね」

「そうなの?ねぇ、ユリ。聞いてよ」


 そうかなと思いながら聞いていたら、やはりゾフィの話も、カミラと同様であった。

 2人とも帰省した最初は両親からもあたたかく迎えられたが、すぐに修行の成果はどうかと聞かれ、技を披露することになったらしい。しかし、それなりに上達はしていても特筆するほどでもなかった上に、王都で店舗経営の練習が上手くいかなかったことまで白状させられたところで、厳しい訓練を実家でやるように言われたようである。

「ユリは大丈夫よね?しっかり上達した上に、新しい丹薬?まで習得していたし」

「まぁお父さんから解毒薬の扱いの不十分なところを指摘されて教わったけれどね」

「ユリでそれならば……そういえばヨルクは?」


「ユリー、いるんだろう?」

 噂をすれば、という感じで店頭から話題にしたドワーフの声が聞こえてくる。

「ヨルク、こっちよ。奥に居るわよ」

「ってゾフィか?って、カミラも居るのか」

「ヨルク、もしかしてあんたも修行が不足って言われて逃げてきたの?」

「ん?鍛冶の修行については、ユリに聞いた焼き入れ技術のこともあるから、特に言われていないぞ。逆に褒められてその先を一緒にやるように言われているから楽しみだ」

「じゃあ、なんでここに来たのよ」

「いや、お袋が食事のことについてうるさいから、みんなと屋台の食べ歩きをしたいと思って」


 なんだかんだ理由をつけてはいるが、3人が3人ともときどきユリアンネの顔をチラチラと見てくることに気づいているユリアンネ。オトマンのことで沈んでいる自分のことを心配して駆けつけてくれていることをありがたく思う。

「じゃあ、買い食いもしながら、ジーモントが実家に帰ってどう扱われているのか見に行きましょうか」

 友達思いの仲間に感謝し、空元気を出すユリアンネ。

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