第368話 吸血鬼モラク

 レッサーヴァンパイアの怒りの矛先がニキアスに向いたところで、ユリアンネが言葉は発せずに仲間達にポーションの瓶を見せる。

 その上で、引き続き≪氷壁≫を窓枠の手前に発動させてモラクの逃げ道を防ぎながら、≪炎槍≫を発動させる。この魔法はユリアンネもまだ容易には多発できない王級魔法であり、モラクもその回避に気を取られる。


「今よ!」

 ユリアンネの合図で、仲間の皆に渡してある高級回復ポーションがモラクに投げつけられる。近くにいたユリアンネとドロテアは栓を開けて振りかける。

「ぎゃあ!」

 醜い表情になったモラク。追い討ちをかけるようにさらにユリアンネが複数のポーションをかけることで、モラクが床に倒れ込む。


「よし!」

 シミリートは≪刺突≫のショートスピアを突き刺しながら、先ほど外した≪麻痺≫と≪吸血≫のダガーを拾って、それもモラクに突き刺し、上から押さえ込む。

 どのように逃げられるかもわからないので、ヨルクの斧で背中の翼を切り落としながら、両手両足を含めてロープで縛り付ける。ときどきポーションを追加で振りかけるとぐったりして発言はないままである。


「みなさん、流石です!」

 ニキアスが声をかけてくれるが、代官のアナスガーはショックで言葉が無いようである。

「吸血鬼なんて、滅多に遭遇するものでは無いわよ。今回の山脈の魔物に関係しているわよ、きっと」

「色々と吐かせたいけれど、吸血鬼って従魔にできるのかな?」

「聞いたことないし成功したフリして逃げられても……」

「仕方ない。ユリ、頭だけ残して凍らせて」

「?まぁ氷の壁で覆ってしまうぐらいかな……」

「≪氷結≫というものがありますので、私が」

 ニキアスが魔術師団員でも上級の魔法使いであることを垣間見せてくれる。

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