第14話 薬師見習い2
父ラルフが薬研(やげん)で粉末にしたカンゾウは、流石に木目が細かく残った粒も無い。
「普通は他の生薬に混ぜて使うのだが、カンゾウはこれだけを煎じて服用しても、喉の痛みや咳などにも効果がある。今日は煎じてみよう」
決まった量の水と一緒に土瓶に入れて、決まった時間だけ熱して、茶こしなどでこして飲み薬にするのだが、その水がこの“木漏れ日の雫亭”のポイントである。
一般家庭ならば川や井戸から汲んできた水、調剤の場合には一度沸騰させて冷ました上澄みの水、もしくは蒸気を集めて作った蒸留水になるところが、ラルフは水魔法で生成した水を使用するのである。
森の木漏れ日の中で光る朝霧による雫には魔力が宿り、それを使用した薬の効力を上げると言われている。魔法で生成しただけの水は蒸留水よりもさらに混じり物がない純水なだけであるが、ラルフは調剤の最後に魔力を込めることで効果を高めている。伝説の雫ほどの効果ではないがそれにあやかるために店名にしているのである。
ラルフは、肘から先ほどの長さの杖(ワンド)を取り出し、呪文を唱える。
「dedicare(デディカーレ)-decem(ディチャム)、conversion(コンバールショナ)-attribute(アッテリブート)-aqua(アクア)、aqua(アクア)-generate(ジェネラテ)」
宝石等の石も見えないシンプルな杖の先の空間に、青色に光る切り絵のような魔法陣が浮かび上がり、そこから卓上に置いたお椀に向けて水が流れ出す。
さらに今日は魔法の触媒を使用している。ラルフは日頃は使用しないのに、アマルダに見せるためであろう。水魔法の触媒である、魔物の水蛇の牙を粉末にした物が椀の周りに撒かれていたのだが、魔法陣が描かれていく過程でその粉末から青色の何かモヤのようなものが魔法陣に吸い込まれて行った。
ユリアンネは前世の記憶で、化学実験の際に化学反応を促進するために使用した触媒は消耗していかないのに、この魔法触媒は消耗品だなと思ってしまう。熟練者は触媒を必須としないのだが、不慣れな者など使用者は多い。だからこそ需要があり、ラルフの店でも薬以外で販売している商品群となっている。
改めて丁寧に見ることができた父ラルフの薬師としての業(わざ)は、まだまだユリアンネの及ぶところでは無い。何となく形を真似することが出来ているだけであった。
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