第12話 写字生見習い2
最初に写本に取り組んだのは、10ページほどの薄い本で現代語の文字ばかりの本であったが、慣れないだけでなく商品にするというプレッシャーに書き間違いも発生し、それを削る作業もあって時間もかかった。しかも、何度も削ったので自分では満足できない物が出来上がった。
「オトマンさん、こんなのになってしまいました。向いていないのでしょうか」
「ハハハ。いやいや立派だよ、最初にここまで出来るのは。自分で気づいていない間違いもない。ぜひ記念に残すことにしよう」
「すみません」
「あ、大事なことを忘れていた。本の最後、著者だけでなく写本をした者の名前を入れるのだよ。例えばこの本も写本だから、ほら、ここに署名してあるでしょ?」
失敗作と思う物ではあったが一生懸命に取り組んだ物であり、署名までした初作品であるので、教わりながら装丁も行ったものが、今でも自室の棚に大切に置いてある。
お試し期間の早い段階で、ユリアンネは疑問をオトマンに確認する。
「こんな高価なものを店頭に並べておくと万引きが怖くないですか?オトマンさんしかいなかったりするのに」
「あぁ、この高級街は衛兵の見回りも多くて治安が良いからね。それにほら、隣が人気の武器屋だから、その客層もある意味で衛兵みたいなものだから。確かに、治安が悪いところだと、タイトルページのみを展示しておく所もあると聞くね。ま、装丁も受注生産する前提の店舗の場合もそうしているらしいよ」
「ここでは違うのですか?」
「そうだね。装丁の注文も受け付けているけれど、中身までちゃんと見て買うかを判断して貰う方が売り手としても嬉しいからこのスタイルで行きたいかな」
オトマンの口調は軽いが、商いを行う上での誠実さには尊敬の念を抱くユリアンネであった。
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