第10話 見習い勧誘3

「店頭のこれらの書籍は頻繁に売れる物ではありませんので、正直、店頭業務は忙しくありません。

 こちらは中級火魔法の魔導書ですね。魔導書はそれほど入荷もありませんが、人気が高くすぐに売れてしまいます。

 こちらは昔の学者がまとめた政治学、こちらは経済学です。これらは貴族の方々が購入されることが多いのですが、ここだけの話、見栄のためのコレクションになることも多いので装丁も上等になっています。

 そのため、そういう本は、本当に必要とされる文官の方のために写本を作成して簡易装丁で安くも販売しています」

 オトマンが店舗を案内しながら説明をしてくれる。写本の陳列だけは、前世の記憶ほどではないがある程度まとめられており、店舗の隅で貴族の使いたちの目には触れないような動線のところに置かれているようである。


「そしてこちらが工房エリアになります」

 店頭から奥に案内されると、傷んだ装丁の修復や写本の制作に使用するという工房であった。

「もしユリアンネさんがこちらにお越しいただけて、薬師見習いも続けられるのでしたら、薬のための工房も別途ご用意いたしますよ」

「確かにこれだけの敷地があれば……」

 ラルフは実際に来るまでは近所の書店レベルを想像していた。その近所レベルでも自身では日頃から足を運べる場所ではない上流イメージであった。その想像を超える店舗であり、終始圧倒されて口数が少なくなっている。


「今日はお忙しい中お時間を頂戴してありがとうございました」

「いえいえ、ぜひまた足をお運び頂き、見習いの件、前向きにご検討くださいませ」


 屋台などが並ぶエリアではなく、飲食店も雰囲気が外からわかるところが少ないので、一般街に戻って来てから見つけた店舗に入ってからようやくアマルダも口を開く。

「あー、緊張したわ。やっぱりこれくらいの方が安心して食べたりお話ができたりするわね」

 父姉に適当に会話を合わせておきながら、ユリアンネは見習いの件を考えている。そして、いつか家を出るならば見込まれて望まれたところが良いと考えて、食事が終わったところで切り出す。

「お父さん、お姉さん。お話があります……」

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