第8話 見習い勧誘

 この世界、成人は15歳ではあるが、職業見習いは8歳から10歳ほどで開始することが多い。1つ2つ試してみて上手く行かなかった場合に別職業にも挑戦することもある。

 薬師の家庭に育ち、親も本人も拒否感がないのであるから普通に姉アマルダも妹ユリアンネも実家で薬師見習いになっていた。母が居ないこともあり、商いだけでなく家事も含めて父と娘2人で行っていたのである。


 ただ、ユリアンネは自分が養子であることを知った今では、いつかは子供がいない別の薬屋のもとに見習いに行くことも密かに考えていた。そのため、父姉には知られないようにしつつ、父ラルフの技術はすべて習得するつもりで、水魔法のことも含めて研鑽をしていた。

 前世では薬学部入学直前に死亡したので、受験のための生物学などは学んでも実際の生薬などについては知識が無い。西洋医学の薬ではなく漢方薬の方がこの世界の薬に近いことは分かるが、そもそもどちらの知識も無い。それにこの世界には魔素や魔法があり、薬の素材に魔物の一部が使われるなど前世では存在しない物が多い上に、それらの方が高効果な場合もあり、例え薬剤師が転生したのであってもすべての知見が使えるわけでは無いであろう、と割り切っている。



 そこへオトマンが父ラルフに、ユリアンネを書店の後継者、書店員見習いにして欲しいと言って来たのである。

「オトマンさん、ですから、ユリは既に薬師見習いですよ。その才能の片鱗もある。それを書店員って理解できないですよ」

「薬師の能力だけでなく、言語能力も高いでしょ?調合もできて手先の器用さもあります。書店員の適性は十分あるのです。それにもし見習いを卒業したら、私の店舗の後継者になって貰いますので、生活に困ることも無いです」

「それはありがたいことです。確かに娘2人のどちらかが婿と一緒にこの店舗運営を、とは考えていましたが、娘たちはまだ13歳と10歳。私も33歳。まだまだ先のことは……」

「まだまだ先と思い続けていた私が58歳になって困っているのです。ぜひご検討を……」

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