第13話 宇治原くん、風邪をひく 2 看病イベントは突然に 2

「連絡あった」


 愛莉の元へ戻り彼女に言う。

 彼女は体をひねって俺を見上げ「やっぱり」とはにかんだ。

 小さく可愛らしい笑顔にドキリとするも顔に出さずに丸机まで向かう。

 カーペットに腰を降ろして、今度は逆に俺が彼女を見上げるような形となった。


 顔を上げたおかげで黒いものに覆われた脚が見えてドキリとする。視線をずらしながらも短めなスカート姿に「無防備すぎ」と心の中でツッコんだ。


 目のやりどころに困り一人気まずくなる中、ソファーの上で足をぶらぶらさせている愛莉が「どうしたの? 」と聞いてくる。

 羞恥心がないのか、と思いながらも「なんでもない」とだけ答える。

 俺の言葉に小首を傾げる愛莉だがこれ以上特に追及することは無かった。

 

 ふぅ、と軽く息を吐きおみ足を直視しないよう勢いよく頭を上げる。

 すると短く切られた髪が輝いているように見えた。


 ……もしかして俺は髪フェチなのだろうか?


「いやそんな事実はない! 」

「うわっ! いきなりどうしたの?! 」

「……気にしないでくれ。男性特有の発作のようなものだ」

「そ、そっか。男性特有の発作なら仕方ないよね」


 全国の男性諸君しょくん。本当に申し訳ない。

 心の中で謝りつつも気まずくなり席を立つ。


「何か飲む? 」

「だ、大丈夫だよ。というよりもレンは休んでいた方が良いんじゃないのかな? 」

「朝薬を飲んだおかげか体調は良いんだ。だから飲み物を出すくらいなんともない」

「それでも油断ゆだん禁物きんもつ! 」


 ピシっと言い、愛莉は持ってきたエコバックを探る。

 バックの中から一本のスポーツドリンクを取り出し、滑るようにソファーから降りカーペットに座り、それを机の上に置いた。


「風邪をひいた時は感じている以上に水分を失っているからね。そんな時の為のスポーツドリンク! 」

「よく知ってるな」

「お母さんの受け売り」


 そっか、と少し微笑ましくなりながらもそれを受け取る。


「じゃぁ早速で悪いけど」


 と言いながらキャップに手をかける。

 少しの抵抗感を感じながら回しふたを取る。


「……しみわたる」


 ゴクリと飲むと思わずぽつりと呟いてしまった。

 冷たいそれが体中に水分が行き渡るようで気持ちがいい。


 ふと愛莉を見るとニヤニヤしている。

 少し恥ずかしくなりながらももう一杯飲んで蓋をめた。


「晩御飯は作れる? 」

「ん~、パンで済まそうかと」

「ならこれ! 」


 次に出してきたのは正方形に近い、よくCMでやっている栄養補給剤。

 ゼリー状のグビっと飲めるやつだ。

 いや飲んだことはないのだけれど。


「栄養補給にはこれだよね! 」

「確かに」


 愛莉は胸を張り堂々と言う。

 それを笑顔で受け取りつつも内心「料理を作ってきてくれたのでは? 」と思った俺の浅はかさっ!


「……本当なら料理を作ってあげたいんだけどね」


 え? 作ってくれる予定だったのか?!


「今は修業中だよ」

「その言葉だけで十分」

「実行に移さないとやらないと同じだから。いつかは手料理を馳走ちそうしてあげるから心して待っててよね! 」

気長きながに待っておくよ」

「そこは早く食べたいという所じゃないのかな? 」

かしてもいいことはないしな」


 特に変な方向に走って危ない物を作られたら困るし。


「レンがそういうのならじっくりと頑張るよ」

「俺としては愛莉の手料理が食べれるだけ嬉しいから、無理せずにな」

「………………うん」


 愛莉はうつむき顔をずらして小さく頷いた。

 ちらりとしか見えないその顔はどこか赤く見える。

 手料理を食べることが嬉しいと聞いて嬉しく思ってくれている、と勘違いしそうになるのは俺がアニメの見過ぎなせいだろう。

 ちょっとした言葉使いで相手に好きになってもらえるなんて非現実的なことはない。


 しかし、どうやら愛莉は料理に慣れていないようだ。

 修業中、ということから恐らく彼女は母にでも習っているのだろう。


 だがそれもそうか。

 今まで陸上一筋ひとすじだったんだ。料理をしている時間が無かったのも当然。


 彼女の手料理を期待しつつ俺はちゅーっと栄養補給剤を飲んだ。


 ———

 後書き


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