第11話 宇治原くん、風邪をひく 1

 スマホの目覚ましが聞こえてくる。

 目をつむったまま音源を探す。

 コツンと硬いものに手が当たり、続いて振動が伝わって来たのでスマホだとわかった。


 それを手に取り止めようとするも、まぶたが重い。

 いや瞼だけじゃない。

 何か頭がぼーっとし、体中が重い。


 眠たいわけでは無い。

 しかしこの重さ……。


「風邪引いた、か……ゴホゴホッ」


 ★


 むくりと体を起こして動こうとする。


 その時気が付いたのだが、俺の体にケットがかかっていない。

 ケットは俺の枕の隣にある。

 なるほど。寝汗と夜の寒さにやられたということか。

 日中暑いといってももう秋だ。夜はそれなりに冷え込む。

 原因に納得しながらも体をもぞもぞと移動させる。


 スマホを持ったまま重たい体を無理やり動かし、ベッドのふちに座る。

 回らない頭で何をするべきか、考える。


「……学校に連絡? いやその前に体温計か」


 どこにあったか思い出しながらも腰を上げる。

 ねっとりとした気持ち悪さに襲われた。


「汗、かないとな」


 顔をゆがめつつベッド下にあるケースを引っ張りタオルを取り出す。

 服を脱ぎ体を拭いてついでに着替えた。

 少しさっぱりしたが体の重さは変わらない。

 一先ず体温計を探すため俺はノブに手を回した。


 リビングまでの短い廊下がいつもよりも長く感じられる。

 これは本格的にまずいかも、と思いながらも途中風呂の扉を開けて洗濯かごにタオルを入れる。

 ダイニングとくっついたリビングを歩きぼやける視界で薬箱くすりばこを探す。


「確か取り出しやすい場所に置いていたはず」


 日頃ひごろ使わないからあまり場所を覚えていない。

 うろ覚えながらもやっとの思いで薬箱を見つけ体温計をわきに挟んだ。


 ピピピピピ……。


「これはまずいな」


 体温計を取り出して確認すると三十八度六分を指していた。

 病院に行った方が良さそうだと思いながらも体温計を元に戻していると、中にある市販しはん薬が目に映った。


「一時しのぎくらいにはなるか」


 薬箱から横長よこながな市販薬を取り出した。


 ――何があるかわからないから持っておきなさい。


 母さんの言葉だが、全くもってその通りだったな。

 実家を出る時、「そんなのいらない」と言った俺を殴りたい。


 パッケージの裏を見ると食後の方が良いらしい。

 パンがあったと思いだしそのままキッチンを探って食パンをかじる。

 コップを準備し冷蔵庫から水を取り出し容器に入れて、ひんやりとした水で風邪薬を飲んだ。


「後は連絡か」


 それぞれ片付け部屋に戻る。

 ぼーっとする頭を何とか動かしスマホを発見。

 そう言えば学校の番号わからん。

 重大なことに気が付きどうするか考えつつ、机からスマホを回収。


 ベッドに寝転がりながら考えているとウトウトしてきた。

 まずいと思いつつも天井を見ていると「トモに連絡を頼むか」と思いつく。

 すぐにスマホを操作して『佐々木友和ともかず』を選び、「風邪ひいた。三十八度六分。先生に伝えて」とだけうち、そして俺は意識を手放した。

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