第2話 蔵の中で


「けっほ、けほ!」



 蔵の中に入ったんだけど。


 くちゃい、きたない。おじいちゃんとおばあちゃんが……ときどきおそうじしてるって聞いてたのに。


 まだだったのかな? いやな時にきちゃった。


 でも……おじいちゃんたちのお家に行く気にはなれなかったから、中に入ることにした。


 まっくらで……じめじめしてる。


 前におじいちゃんに教えてもらったけど、ここは光をあんまり入れちゃだめなんだって。しまっているものが、だめになるからなんだって。変なの。



「……おじゃま、します」



 誰からも返事がないだろうけど。


 いちおー、ここはお家とは違うところ。


 だから……あいさつしたんだけど。


 びっくりすることが起きた。



『お入り』



 声が聞こえた!?


 あたしじゃない……女の子? ううん、女の人の声。


 びっくりして、開けておいた蔵の扉を閉めちゃった!?


 まっくらがもっとまっくらになって……こわくなってきて、あたしは泣きたくなった!!


 なにが起きたの!?



「……う……うっ!」



 こわい。


 こわい、こわい!!


 おかあさん、こわいよ!!


 あんなこと言っちゃったけど……やっぱり、おかあさんに助けてほしい。


 おとうさんもだけど、おじいちゃんおばあちゃんよりも……おかあさんがすぐに出てきて。


 だんだんと……泣いてしまうのがわかったけど、扉を開けるのが出来なくて。


 赤ちゃんの宙太そらたのように、泣き叫ぼうとしたら。



『ほっほ。驚かせてすまなんだ?』



 また……女の人の声が聞こえてきて、頭になにかあったかいのがさわってきた。おかあさんが……頭をなでなでしてくれるみたいに。



「……だ、れ……?」



 そのあったかいので……こわいのが、ちょっとだけ消えた。少しずつ……こわくなくなってきたの。



『うむ。あちきのことをあまり覚えておらなんだ? まあ、まだ幼いゆえに仕方なかろう』



 女の人がそう言ったあと……パチンっと、大きな音が聞こえて。蔵の中が、電気もつけていないのに……明るくなった!?


 びっくりしたけど……あたしの前にいた女の人にも驚いた!?



「……え?」



 見たことがない……きれーな女の人。


 おかあさんより……年下?


 あたしよりもっと大きなおねえさんだ。


 真っ黒の髪。


 きれーな白いはだ。


 目も大きくてかわいい。


 にこにこ笑って、あたしを見ている。


 こんなきれーな人……パン屋のお客さんでも見たことない。


 誰だろう?



『久しいのお。桜乃さくの?』


「……あたし、のなまえ」


『覚えておらなんだ。あちきじゃよ、美濃みのじゃ』


「み……の、さん?」


『ほっほ。やはり覚えておらなんだ』



 みの……っておねえさんは、さっきからあたしがおねえさんを知っているって言うけど。


 こんなにもきれーなおねえさん……見たら覚えているのにな?


 首を横に振ると、みののおねえさんは……奥に指を向けた。


 そこにあったのは。



「……ままごとキッチン?」



 ちょっと汚れているけど……ピンク色のあたしくらいの大きさのおもちゃ。


 保育園の頃は、よく遊んでいた……おままごとの時に使っていた、大事なおもちゃ。


 それが……たしかおばあちゃんがしまっておこうか? と言ってくれたから、ここにあるんだっけ?



『あちきは、あの『ままごとキッチン』そのものじゃ』


「え?」


『あちきは人間じゃないんよ。付喪神つくもがみと言う神様じゃ』


「……かみさま?」



 だから……こんなにもきれーなおねえさんなのかな?


 こわいのがなくなったから……あたしはそうなんだと思ったわ。

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