『全国山伝説』(●●出版より)
名を付けるという行為は非常に重要な意味を持つ。
この世界に存在するモノは無機物有機物問わず、必ず命名され、命を吹き込まれる。なぜ、人々はモノに名を付けるのか。それは「関心」と「共有」が主な理由として挙げられる。アレは一体なんなのか。アレについて知っている者はいないだろうか。そのような認識を仲間と共有、そして他のモノと区別するために行われる行為が名付けであり、コミュニケーションにおいても非常に重要な意味を持つ。
日本の山は「城山」「丸山」といったものが非常に多く見られる。これはその名の通り、地方の豪族が城を築いていたり、形状が丸いことから名付けられたりというのが定説である。また、気候、動植物の生息環境、山の色彩から名付けられるのが大まかな山の名の法則だろうか。
山では春の風物詩として「雪形」が見られることがある。これは春を迎えた雪山の雪が一部融け、露出した岩肌の部分と合わさることで、まるで芸術作品のように様々な模様を描く現象である。この雪形が命名の元になっている山は北アルプスに多く存在し、代表的な例では五竜岳、白馬岳、蝶ヶ岳だ。富山県にある人形山では面白い逸話が残っている。
昔、山に老婆と二人の娘が暮らしていた。ある日、老婆は女人禁制だった山に入ってしまったために、跳ねた小枝によって目を傷めてしまう。娘たちは山の神に対して祈りを捧げたところ、万病に効く湯に連れていけというお告げがあった。娘たちはそのお告げに従い、老婆を背負って湯に連れて行くと、たちまち彼女の目は治ったという。その後、二人は山頂に神様がいることに気付き、お参りに行ったのだが、下山途中に山が荒れ、老婆の元には戻らなかった。春になり、山の雪が融け始めると、その娘たちが手を繋いでいる姿が見えることから「人形山」と呼ばれるようになった。
ただ雪形から名付けられるだけではなく、このような民話が残されることこそ、名を与えることによって命が吹き込まれることの証明ではないだろうか。
(中略)
●●県にある■■山にも面白い逸話が残っている。この山は古名では●●山と呼ばれており、現在の名とは異なっていた。しかし、ある日、その地区を大きな洪水が襲った。山は水没してしまったのだが、その際に松の木に大きな■が絡まっていたことから、■■■■山と呼ばれ、それが短縮されたことで、■■山と呼ばれるようになった。また、山には非常に多くの■が見られ、その■を捕獲する意味から、■■山と伝えられていた。
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