死ぬほど君を。

かようろ

プロローグ-逢いに行く-

よくあるはなし。だけど、それが自分の身に起きるなんて思ってもなかった。


普通の、ある日の、帰り道。自分とせいは軽口を叩きながら歩いていた。


そこに、ボールを追いかけていた少年が道路へ飛び出して行った。

「危ないなぁ」自分が思ったのはただそれだけ。


だって、だってそこにスピード違反の車が猛スピードで突っ込んでくるなんて思わない。


だけど、晴は違った。あの場面で動ける人はそうそういないと思う。ほんとに、正義感だけは強いもんなぁ、晴は。でも、晴のそんなとこが、好きなんだ。


でもさぁ、他人を庇って死んじゃうなんて、ほんとにバカだよねぇ、晴は。まったく呆れちゃうよ。


気づいたら晴は血まみれで倒れてて、少年が泣いていて、車の運転手がおろおろしていた。


ほんとにもう、あの時はびっくりした、っていうか呆然とした。さっきまで普通に話していた友人が、道に血まみれで倒れている。


自分はどうしたらいいかわかんなくって、ただただ突っ立っていただけだけど、あの飛び出してきた少年のお母さんが警察と救急車を呼んでくれたみたいで、気づいたら自分は救急車に乗せられて手術室の前にいた。


手術中のランプがふっと消えて、お医者さんが重々しい表情で自分に言ってくるんだ。「残念ながら、助かりませんでした。」って。


でも、自分は晴が死んだ実感があまりにもなくて、これって夢?とかドッキリ番組?とか思ってた。だってそれくらい唐突で、非現実的なことだった。


自分はまだ心の中で思ってた。これは最低な夢で、朝起きたら晴は現実にいて、明日も一緒に学校で他愛もない話をするんだって。


でも、家に帰っても、ご飯を食べても、お風呂に入っても、寝ても、起きても、それは現実だった。


お母さんが、「晴ちゃんのお葬儀、行くわよね?辛いと思うけど…」とかなんとか言ってて、警察の人からもなんか事情聴取されて、晴の葬式に行って、棺に入れられてる晴を見て。あぁ、晴は死んだんだって思った。


特に何も感じなくて、悲しくもなくて、ただ現実を受け入れて、寝て、起きて、晴がいない教室でひとり本を読んで、晴がいない体育の授業で他の子とペアを組んで、晴がいない帰り道を辿って。


そのとき、ふと思った。なんか、ちがう…っていつも自分の隣には晴がいた。当たり前の様に、当然の様に。暴言を言っても受け入れてくれて、我儘には渋々付き合ってくれて。やっぱり、自分には晴がいないとダメなんだって、思ったの。そう思い至ってから、行動に移るまでそう時間はかからなかった。



「ロープよし、遺書よし、死ねなかった時用に薬も飲んだ。よーしこれで大丈夫!」

今、逢いに行くからね。晴。


自分はそうつぶやいて、ロープに手をかけた。

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