アルコール依存少女

未成年 in 酒

 ところで私はお酒が好きだ。


 女子高生が異性に恋し、青春を謳歌するように、私は酒に酔いしれた。文字通り、酔わない日はなかった。いつ何時でも酔っていたかった。


 私は未成年だ。お酒を飲んではいけない時期だ。誰かに知られれば、いや、親にバレたら色々と終わる。いや、マジで。人生も、娯楽も、生きる道も、全部いっぺんに閉ざされてしまう。

 だからお酒を飲むときは、良くない男の家で酔うか、パパの缶ビールをくすねてちょびちょび飲み、バレないように捨てるのだ。まあ、たぶん、それでも両親は娘の不孝を察しているんだろうけど、優しさなのか、世間体を気にしてか、何も言わないでくれている。

 

 お酒は好きだが、好きなお酒はない。私のお酒処女はレモンサワーによって奪われてしまったけれど、ビールだって飲むし、ワインはもちろん、ハイボールも梅酒もジンもウオッカも飲んだ。とりわけ日本酒が飲みやすくて酔いやすかったけど、消毒液みたいで正直嫌い。

 とにもかくにも酔えればなんでもよかった。酔って視界がぐわぐわして、やばいなって思う瞬間が、たまらなく好きだった。


 酔いの醒めないうちに寝ると、もしかしたらこのまま死んで、目が覚めたら別の人生がスタートしているんじゃないかと、期待した。期待? ちょっと違うな。どちらかというと願いかも。是非ともそうなって欲しかった。

 まあ、当り前のように死んでないし、酔いは覚めるし朝はやってくるしで、現実は厳しいけれど。朝日は水よりも酔いに効く。


 「どうしよっかな」


 それが私の口癖だった。何かに悩んだ時、そうでない時、いつ何時であろうとも、無意識に呟いてしまう。というか、この地の文を書いたのは、ウイットに富んだ文章を思いつかないがために、「どうしよっかな」と口にしたからだ。

 私は酒に酔っている。酔ってこれを書いている。酔った自分は自分じゃないから、シラフの私が出来ないことを、容易にやってくれる。タイピングミスが多いのがうざったいけど。


 で。

 私は意識のあるまま酔うタイプだ。これは駄目って思っても、止められない。一番面倒臭いやつだ。質の悪いことに、羞恥心もなくなっているので、誰も止められやしない。でも、この酔い方が、一番気持ちいい。

 普段の根暗な私を自由にしてくれる。それがお酒だ。

 お酒はきっと、本当の自分にしてくれるんだ。


 そういえば、良くない男と書いたけれど、彼は私の神様なんだ。だって、お酒と酔いの素晴らしさ、生真面目に生きる馬鹿らしさ、未成年の幼気さ......と、色々と教えてくれたんだもの。

 彼、名前は分からない、彼と言ったら彼は彼。彼が彼である以上、彼。そんな彼と出会ったのは、雨の降るうざい午後だった。いつものようにひとりで、ぼっちで、虚しくいっちょまえに絶望面して、俯いて眉を顰めて傘をさして歩いていたら、「彼」になる前の彼に激突した。百パーセント自業自得で。

 なのに彼は謝って来た。すごく情けない声で「あぁ、すいません」って。髭面でやつれた顔つきの割りに、謙虚で萎縮してて、惨めだった。

 私はうんともすんとも言わず、冷静に、何事もなかったかのように、その場を去ろうとした。んだけど、なんでかな、「痛った」って言っちゃった。顔も顰めて如何にも苦しがっちゃった。


 彼は何度も謝ってきた。別にどこも痛くないのに、心は充分痛かった。

 制服を着ていたから、私への罪悪感は、かなりあったんだろう。下手したら傷害事件で、人生詰みだからね。憐れあわれ。


 ちょっと可哀想になって、私はその場を去ろうとした。

 でも、彼も一物抱えた奴だった。「ねぇ!」と叫んで私を呼び止めたんだ。滅茶苦茶怖かったし、緊張もした。それでも努めて冷静に、「え?」って答えた。


「怒ってないですか?」

「あ、はい。別に」


 まったく、思ったことを直接言葉に出来たらいいのに。年上の男に話しかけられて、「あ」ってワンテンポ置いちゃうだなんて。

 

 なんにせよ、ここが運の尽き、あるいは人生の分水嶺になったんだ。

 彼との生活は、あまり覚えていない。思い出したくもない。たぶんつまらなかったはずだから。


 お酒を教えてくれたのは、感謝しているんだけどね。


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アルコール依存少女 @Hokora

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