獄中抗争

花月-KaGeTsu-

第1話

ここは、麻薬ギャングと関連のある者達が収容されているイースタン刑務所。

収容人数50名の刑務所に、収容されているのは248名。容量不足も人員不足も甚だしい。

敵対している者が同じ格子の中にいる。

争いが起らない日がない。

国内でも最高に危険な刑務所である。


金髪に緑色の目がよく目立つ白人男性。

ケヴィン・グレイ。

白人至上主義のギャング『サラ・ローライ』の構成員の一人。

麻薬の売買で刑務所入り。

「ちっ。見てんじゃねぇよ」


黒のドレッドヘア。肌が黒いせいか白い歯がよく目立つ。

ジェームズ・ミラー。

アメリカ系アフリカ人を中心とするストリートギャング『ヴァリップス』の構成員の一人。

麻薬の売買で刑務所入り。

「んだと、こら。ガンつけてきたのはてめぇだろうが、ケヴィン」

「目の前で黒い奴がフラフラしてりゃ、虫唾が走るだろ」

ケヴィンは嫌味たっぷりに本人に尋ねる。「なぁ、ジェームズ」

「んだとこら!?」

今にも殴り合いの喧嘩になりそうだったところに、柵の反対側から静止の言葉が響いた。

「おい、グレイ、ミラー。暴れるな」

振りかざした手を止めたのは、ジェームズだった。

手を下ろし、看守を睨みつけながら嫌味をぶつける。

「ちっ。お勤めご苦労さんだこった。看守殿」


スティーブン・ターナー。

イースタン刑務所で看守を何十年としているベテラン看守だ。

ケヴィンとジェームズとは、この監獄内で長い付き合いとなる。

「貴様らいい加減にしないと刑を上乗せするぞ」

ケヴィンが鼻で笑いながら看守に軽口を叩く。

「元々10年超える懲役だ。1,2年変わったところで困りゃしねえよ」

「こいつと離れられるならありがてぇがな」

「はっ。そりゃ同感だ」

2人の乾いた笑いと共に、他の囚人たちもゲラゲラと笑っている。こんな感性を持っていた奴らが世の中に蔓延ってきたと思ったら、寒気がする。

牢屋の中が盛り上がっているのをみて、スティーブンは肩を落とす。

「目が笑ってねぇよ、お前ら」

突然、ジェームズが柵に飛びかかってきて、スティーブンに目を合わす。

「ほれみろ、元々こういう目なもんでな」

覚醒剤をやっていた者の行動は突拍子もない。スティーブンは何も反応しなかった。近づいてきたジェームズから一歩ずれ、スティーブンは奥でゲラゲラと笑っているケヴィンに声をかける。

「全く。おい、グレイ。面会だ」

さっきまでゲラゲラと笑っていたのが嘘のようにぴたりと動きをとめ、スティーブンを睨みつける。

「あん?俺?」

「お前みたいな色白野郎にわざわざ会いに来るなんて、どこのもの好きだろうな」

柵前から動かず、振り向いて挑発する。

「おい、ジェームズ。てめぇのその黒い肌を赤黒くしてやろうか?」

今にも喧嘩が始まりそうな勢いだったが、あくまでもジェームズはからかって楽しんでいるだけのようで、両手をあげてニヤニヤと笑いながら「おうおう、こわいこわい」と呟いている。

「ほら、行くぞ」

無理やり、ケヴィンだけを柵の外へと連れ出していく。

「後で覚えてろよ。てめぇ」

そう、ケヴィンはジェームズに向かって唾を吐いた。

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獄中抗争 花月-KaGeTsu- @kokone_aira

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