花と旋律
井伊琴陸
第1話
「ふぅ...」
私、
あーあ、3年間また...か、、
校長による祝辞の言葉、理事長挨拶、担任の挨拶。何もかも憂鬱でしかないわ。何もおめでたないねん。つか入学式いらんねん。
そんなことを考えながらぼーっと外を見る。雲一つない、まるで絵に描いたような真っ青な空、そして桜。あー、雨でも降らんかなぁ。
「きゃあああ」
いきなり悲鳴が聞こえた。何事かと思って辺りを見回す。
全校生皆んな目がハートやん。どした。
壇上へ視線を移すと、
ああ、
「会長、今日もお美しい。」「結婚してほしい。」
生徒たちが口々に言う。そういえば、生徒会って5人おるねんけど皆んなお顔が良いねんな。顔で選んだんかなってぐらい。でも生徒会って独裁的で私はあんま好きじゃないかな。「生徒会メンバーの命令は絶対」っていう意味わからんヤバい決まりがあって、従わんかったら偉いことなる。皇火乃香さんだって温厚に見えるけど絶対サイコパスやろ。よく生徒を学校から消すのやめて欲しい。私は見たことないけどかなり犯罪紛いな酷い仕打ちに遭うらしい。うちの学校は学費高いけど進学率めっちゃ良くて推薦も取りやすいから退学したい生徒なんかおらんと思うし、正直迷惑。先生らもなんで黙認しとおのかわからん。彼らの親の地位がどれだけあろうがダメなもんはダメやん。火種に入らんうちはなんもないけどそういう組織ってどうかと思うわ。
そうこうするうちに入学式は終わり、私は家に帰ろうとした。
「優乃!」
廊下を歩いてる時、後ろから声をかけられた。
「はい、って、え?
振り向くと前髪で目元が隠れた、細っそりとした青年が立っていた。彼の名前は
「なんでおるん?」
「普通科の高校通ってから音楽大学行こうと思ったんだよね。折角だし優乃と同じ高校受けたら受かったんだ。凄くない?倍率40倍。僕頑張ったんだよー」
は?奏ってずっとヴァイオリン弾いてたくせに座学もピカイチとか知らんし。この学校、中学より高校からの編入の方が難しい。やから、相当の学力がないと受からない。私が中学編入した時だいぶギリギリやった。中学の入試でさえ難しいのにあれを超える難易度突破するとか奏は化け物か。つか奏パパママもなんで言ってくれんかってん。先週も普通に会っとおねんけど。
「志望校も合格も聞いてもなんも教えてくれんかったから、どこ行くんか思ってたわ。同じ学校やったら言ってえや!今日の憂鬱な気持ち一瞬で吹っ飛んだわ。」
奏が3年間同じ学校なんは強すぎる。絶対楽しいやん。
「だってサプライズにした方が面白いと思って。これからは放課後一緒に学校で練習できるね!」
ほんま。私の専門は声楽だけど奏のヴァイオリンの伴奏を弾いている。奏はコンクールで優勝しまくるもんだから色んな所行ったな。私も奏に伴奏頼んでるから同じ日にある音楽コンクールとか結構お互い大変やし。その分、学校が一緒やったら休み時間とかも合わせ練習できる時間増えるからかなりええな。
「で、奏は何組?」
これ重要。もしクラス一緒やったら3年間ずっと一緒ってこと。クラスに奏がおる、友達がおるってこと!
「それがね...優乃とはね...」
「え、ちゃうん...?」
「一緒なんだ!A組!」
「っしゃあああああ!」
うおお!最高!最初の間が残念そうに見えて、もしや、と思ったけど、良かった!超ラッキーやん!
雄叫びをあげる私を行き交う人たちは不審そうな目で見た。
「明日からよろしくね!僕さ、新入生代表で挨拶してたけど気づかなかったの?」
え、新入生代表って成績1位がやるやつ。奏やったん!?
「ごめん、そん時多分寝とったわ。てか奏が賢いんは知らんから。」
「あ、でもさ、2位って優乃だったんだって?さっき校長から聞いたよ。」
え、私2位やったん?私って意外と賢かったん?確かに中学編入した時ギリギリで編入者私1人やったけど、、、そういうこと!あれは1人しか入れん前提で合格点をギリギリにしとったんか。高校はエレベーター式でテストはいらないけど、一応形式だけ問題は解いたのだ。
「私さ、今まで定期テストとかも順位気にしたことなくて見とらんかったけど賢かってんな。でも新入生挨拶とか絶対嫌やし奏より点低くて良かったわ。」
絶対無理。場が白けるし変な目で見られるし。中学編入した時から私は何故か浮いていた。クラスメイトからもよく「中川さんって不思議ちゃんだよね。」ってよく言われる。あれは嫌味だな。中学の入学式はちょうどママの日本公演の千秋楽と被ってて無理言って観に行ったけど行っとらんかったら挨拶させられてたんかな。恐ろしいわ。
「良かったらうち来ない?今日は両親共に仕事あって帰り遅いけど母さんが入学祝いで優乃と僕にケーキ買ってくれてるからさ。」
莉子先生大好き。あ、莉子先生は奏のお母さんの名前。
「次お会いする時なんかお礼持って行く。」
私は上機嫌で奏と家へ向かった。
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