また一つ謎が解けて

元橋ヒロミ

プロローグ さて問題です

「前人未到のジャングル奥地に、1本の木がありました。

 木はスクスクと育ち、とても太く大きな木になります。

 何十年、何百年、何千年と年月が過ぎ、木はさらに太く、さらに大きくなりました。

 世界で1番の大きき、世界で1番太い木です。

 ですが、ある日そんな木に不幸が訪れます。

 急に天気が悪くなり、雷が鳴ったと思ったら、木に落ちたのです。

 木は自分の重さも手伝って、根元から大きく裂け、倒れてしまいました。

 それから、1年としないうちに木は枯れ、朽ち果ててしまいます。

 さて問題です。

『この木』は、存在したと言えますか?」

 最後の部分は、教室全体を見回すようにしながら、その講師は言った。

「あったのなら、存在したと言えるんじゃないですか」

 と、生徒の1人が言う。

「前人未到の地ですよ?

 誰も見ていないし、認識もしていません。

 そして、朽ち果てることによって、存在すら無くなってしまった。

 それでも『その木』は、存在したと言えますか?」

 もし『その木』の存在が認められないというのなら、人の場合はどうなのだろう?

 何か優れているわけでもなく、歴史に名を残すこともなく、それどころか誰にも愛されない存在は、どうなのだろう?

 存在したと、言ってはいけないのだろうか?

 ボクは、ここにいるのに。

 存在しては、いないのだろうか?

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