第39話 引っ掛かり
ハナマルたちは書類(興信所の報告書)一式と、河合真穂の書いた物語のコピー、それと前金として30万円を置いて、カラオケ店を出ていった。
私は引き受けるなんて、一言もいってはいないのにだ。
まあ、ハッキリと断らなかった私にも、少し問題があったことは認めよう。
私が即座に断らなかった理由。それは、この『女の子と旅をしたときの話』を読んでいて、気になる点が2つあったからだ。
1つは女の子が『おかあさんと話をしにいくの』と言っていること。
両親ではなく、なぜ『おかあさん』なのか。
もう1つの点は『わたし』なる人物が、その女の子の目的を聞いても、その目的自体を大して不思議に思わなかったこと。
この違和感が、やけに引っかかったのだ。
まだ最後まで読んでいないので、早急な考えかもしれないのだが。いや、そもそも素人の作り話に、矛盾点や違和感など、あったところで不思議ではないのだが。
私が一人カラオケ店に残り、少しの間『女の子と旅をしたときの話』に目を通していると、スマホにメールが入った。
『河合真穂との面会、本日下記の時間でしたら、協力者が案内します』
短い文章と共に、時間と病院までの地図。それと院内の地図と、時間の指定されたルートが添付されていた。
時間は分刻みで書かれている。
いまから向かってギリギリか。
考えさせないために、わざとギリギリの時間にメールしてきたのかもしれない。
面会できる時間は5分ほどのようだ。
「まだ、引き受けると決めたわけじゃない」
自分に言い訳をしながら、私はカラオケ店を出た。
きっと地図がなければ迷っていただろう。
病院までは、すぐに行けた。問題は病院内だ。
病院の中にコンビニやレストラン、クリーニング店、お土産物屋まで(ここは特別?)あった。
大学病院というのは、こうも広いものなのだろうか? というくらいに広く、いくつもの棟に別れている。ちょっとした街のようだ。
その中を、地図に従って進んでいくと、入院患者専用の棟へと行き着く。警備のいる受付で、訪問先名を『河合真穂』ではなく『5F
そして指示された道を通り、エレベーターに乗って7階で降り、非常階段で6階へ。これも指示通り。
そこで非常階段から出ずに、指示された時間まで待ってから扉を開け、6階フロアーへ出る。と、一人の痩せた看護婦が、目の前に立っていた。
40才くらいの、神経質そうな感じがする人物だ。
「前もって知らせていると思いますが、時間は5分です」
看護婦はそう言うと、周りを見ることなく、真っ直ぐ前方だけを見て進み、目的の部屋の前で立ち止まった。そこには、ドラマなどでしか見たことのない『面会謝絶』のプレートが掛かっている。
「時間がありませんよ」
看護婦に言われ、私は急いでドアを開けると、中へすべり込んだ。
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