第20話 解けた‼︎
次の日、朝早くからトミ丸君の家に四人で集まった。みんなそれぞれ家で考えてきたことを持ち寄ったけど、どれも暗号解読の決め手にはならなかった。
全天星座図、そして犯人からのメッセージを畳の上に並べたまま、僕らは頭を抱え続けた。
お昼になり、午後になり、15時になっても結論は出ない。すでにヤマモトモウタがゆうかいされてから丸二日が経過しようとしている。いやがおうにも焦りが募る。
「ちくしょー、こいぬでも。おおいぬでも、りょう犬でも、おおかみでもねえなんてよ。じゃあ、あとなにがあるってんだ。チワワ座でもあるっていうのかよ」とアギト君がいらだちを抑えられずに吐き捨てるように言った。
トミ丸君も「おかしいなぁ、三つの犬っていったいなんなんだろう」と首をひねっている。
僕はいま一度、二つの図を隅から隅まで見比べてみる。少し冷静になって見てみると、ある二つのことに気づいた。
ひとつは、町の南で隣町との境界線である国道にほど近い僕の家のすぐそばには巨大な5号マンホールがあるということだった。全天星座図を照らし合わせてみると、そのマンホールはカノープスにあたることがわかる。
それからもうひとつ、町の北、僕がいつもナックルボールの練習をしているあの公園のあたりは、ホームベースのような形をしたぎょしゃ座にあたることもわかった。しかも、僕が壁あてのときにマウンドに見立てていたあのマンホールはなんと、謎の伴星をもつアル・マーズだった。
なんだか偶然にしては出来過ぎてるような気もする。大げさに言えば、なにかそこに意図みたいなものを感じさえする。
そんな風に考えていると、クロ丸が鈴を鳴らしながら二つの図の上をぺたぺたと歩き出した。青い目と黄色い目で僕を見ている。かまって欲しそうだ。
向かい側に座っていたガールジェシカちゃんが「クロ丸ちゃん、邪魔しちゃだめよ」と、ネコナデ声でそのまま抱き抱えた。そして一言。
「でも……なんでなのかしらね……」
「なにが、なんでなの?」と僕。
「なんで88個の星座の中にネコ座がないのかしら?犬もウサギもヤギも鳩も、やまねこ座だってあるのに、ネコ座がないなんてなんかへんじゃない?ネコと人間は、紀元前からの付き合いだって言われてるくらいなのに、あんまりだと思わない?」
「たしかにそうだね」と僕はうなずいてしまう。
全天星座図上にネコ座はない。クロ丸はもしかしてそのことを伝えたかったんだろうか。
ななめ向かいに座るアギト君は、もう座ってさえいられない様子だ。
「おい、ガールジェシカ、そんなネコ座云々のことは今はどうでもいいだろ。『三つの犬』について考えることが先決なんだ。それにネコ座がなくたってべつにいいじゃねえかよ」
するとそこで、少し離れたところで、井戸ネットで調べ物をしていたトミ丸君が「そっか、盲点だったよー」と大きな声を出して顔を上げた。またなにか発見したみたいだ。
「うん、やっぱりあった。安心してガルジェちゃん。ネコ座はちゃんとあったよ」
トミ丸君はこちらに来てしゃがむと、全天星座図のポンプ座とうみへび座の間のあたりを指でさした。
「このあたりにネコ座があったんだよ。でも長い年月の間に廃れちゃったんだ」とトミ丸君。
僕はなんとなく、そのネコ座の場所をマンホール配置図と照らし合わせてみた。そこはちょうど今、僕らのいるこのトミ丸君の家のあたりだ。
「よかったわね、クロ丸ちゃん」と笑顔のガールジェシカちゃん。
「にしても、星座にも廃れちゃうとかいうのがあるのねぇ……」
「うん、ほかにも現存しない星座ってたくさんあるんだよ。たとえば、ふくろう座とか、ゆりの花座とか、大雲座に小雲座。それから……」
そこまで言ったあと、トミ丸君は突然「あっ」と立ち上がる。
「そうか!ケルベルスだ」
割れんばかりの大声でトミ丸君は叫んだ。
図に見入っていたアギト君がおどろいて身を起こす。
「な、なんだよ、トミ丸、いきなり大声だしやがって。それになんなんだよ、そのケロケロとかいうのはよ」
「違うよ、アーギー、ケロケロじゃなくてケルベルスだよ」
僕も「そのケルベルスっていうのが『三つの犬』の答えなの?」と、話のねじを一気に巻く。
「そのとおりだよ、かず君。ケルベルス座も現存しない星座のひとつなんだ。ケルベルスはギリシャ神話にでてくる地獄の番犬で、頭が三つあり、蛇のようなしっぽをもつ怪犬なんだ」
「そうか!それで三つの犬か、なるほどね」と僕も声がでかくなる。
アギト君はまたしても待ちきれずに、全天星座図をトミ丸君の顔のすぐそばまで持って行って「どこだ、それは、早く」と爆催促。
トミ丸君はもう一度井戸ネットで情報水を汲み上げて確認してから「このあたりだ」と指し示した。
そこはヘラクレスが左手でつかんでいる二匹のへびのあたりだ。すぐにマンホール配置図と照らし合わせる。どうやらここからはずっと西のほうのようだ。
「ここに今度こそ星の牢獄があるんだな」とアギト君が念を押す。
「うん、まちがいないよ」とトミ丸君。
「よーし、みんなヤマモトモウタを助け出しにいこう‼︎ 」
僕はお腹の底から声を引っ張り上げてそう叫んだ。
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