第10話 悪夢のマラソン大会
今にも泣き出しそうな空だ。
そして半べそな僕が体操着姿で校庭に立っている。
胸にはゼッケン。
校庭には白いスタートラインやトラックレーンが引かれている。なぜなら今日は年に一度のマラソン大会の日だからだ。こんなビッグイベントの日に僕が学校にいるなんて、と僕自身思う。
トミ丸君と出会った日から今日で一週間。友達ができたという事実が僕の心境に多大な影響を与えたみたいだ。
僕は僕が思っている以上に単純なタイプなのかもしれない。もちろん、母さんを喜ばせたいという気持ちもあった。だからこそ今まで一番避けていたイベント日を選んだわけだ。
もっとも、マラソン大会なら走っているだけで何とかやり過ごせるだろうという腹積もりもあったのは事実。それでも母さんはとても喜んでくれた。アヒルも羽をバサバサと広げて喜びを表してくれた。
アヒルにはあの次の日にすぐ言った。そういえばその日に結局大雪なんて降らなかった。天気予報は見事にはずれた。やっぱり未来を予測することって難しいもんだ。
今朝の肌寒さに太ももをさすりながら僕は辺りを見まわしてみる。同学年の男子たちがそれぞれ思い思いにスタートの時を待っている。一緒に走る約束をしている生徒たちや、淡々とストレッチをしてる生徒、早くも気分が悪そうになっている生徒など様々だ。
聞いたところによるとつい先日抜き打ちの三大制限違反チェックがあり、数人の生徒がひっかっかたとか。だから今日は少し人数が減ってる。ひっかかった彼らは後日、更正ゲノム編集されて帰ってくると言う噂だ。僕もいつかそうなるかもしれない……。根本的な疑問が浮かびそうになって自力で消した。制度は正しいから制度なんだろう。
黄色い声が聞こえた。
スタート地点から少し離れたところからは、すでにレースを終えた女子たちの声が聞こえてくる。誰がトップで帰ってくるかを予想し合っているようだ。
(僕には関係ないことだしな……)
誰とも言葉を交わすことなく所在なく突っ立っている僕。学校のすぐそばのゴミ集積場に収集車が来たのが見えた。そこにいた何匹かのカラスが大きく鳴いて一斉に飛び立った。
と、そこに例の人が現れた。
「よう、黒須じゃん」
その声に僕はハッとした。いつのまに来たのか目の前にはヤマモトモウタの姿が。相変わらず鼻水を垂らしている。僕が黙っているとヤマモトモウタはニヤニヤしながらこう言った。
「まさかマラソン大会の日に黒須と会えるとはね。ちゃんとゲノム編集組がしなきゃいけない運動能力均等プログラムやってきたか。じゃないと反則だからな。どっちが先にゴールするか、勝負しようぜ」
背が高いヤマモトモウタには話すときにいつも見下ろされてしまう。遺伝子操作された子たちはそれ以外の子よりも運動能力が高く不公平ということで普段は競わないんだけどマラソン大会の日は特別に科学的に均整をとって競技する。
何も答えたくはなかったけど最低限の言葉を僕は返した。
「ちゃんとルール通りしたよ。でも勝負はやめておくよ、負けると思うから」
「なんだつまんねぇの、そうそうおまえが来ない間に学校で無届けクローンの生徒が見つかったんだぜ、隠してたんだ、クローン
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