嘘つきは青春の始まり
@sousakuya
第1話 罰ゲーム
放課後の学校の屋上には普段の静けさは一切無く、約30人程の生徒達がとある2人の男女生徒の周りを囲むと落ち着かない様子で見詰める状態だった。
もしこの学校が不良生徒しか在校していない危険で過激だった場合、2人の喧嘩を観戦しにきたギャラリーにも見える。が、そんな頂上と書いてテッペンと読むようなイベントではなかった。
そこそこ田舎とそこそこ都会の狭間に存在するこの
主に学業でそこそこ有名な大学に進学する生徒や部活で成績を残しそこそこその道に進む生徒が多い。
そこそこ進学校だ。
そこそこで溢れる針木高校の唯一の強みは学校の制服が可愛くて女子人気が高いことくらいだった。
となるとこの状況で考えつく事は1つくらいしか見当たらない。
愛の告白である。
1人の生徒が1人の生徒に想いを伝える。
しかし何故このようなドラマや漫画ようなベタな状況になってしまったのか。
それは今日の朝、2年1組の朝礼前まで遡る。
5月15日、月曜日。天気は曇り。
学校の校門周辺に生えていた桜は既に散り、新学期が始まって1ヶ月が経っていた。
知らない顔が多かった期間も1ヶ月が過ぎた頃には当たり前の顔となる。
学校の生徒達の視線を浴びながら2年1組の教室の後ろのドアから1人の女子生徒が教室に足を踏み入れて窓際の1番後ろの自分の机に通学鞄を置くと席へ座った。
彼女の名前は
身長は158cmの髪色は暗い茶色のボブヘアで少し丸顔だがスタイルが別に悪いというわけではない。肌は白く、二重の大きな瞳と笑うと見える八重歯が特徴的で一般的にたぬき顔と呼ばれる部類である。
そして、そこそこしかいない不良生徒の部類でもあった。
不良生徒の部類といっても決してヤンキーで喧嘩の日々やバイクで暴走行為上等というわけではなく、他の生徒が真面目な性格が多いためどうしてもそう見られてしまうだけである。
不良というよりは不真面目が近いかもしれない。
もちろん本人には不良生徒だという自覚はない。
自他共に認める学校の可愛いマドンナ的存在。
「歩美はよー」
日課であるスマホを触って過ごしていると立花の肩に手を軽く置いて挨拶をしてくる生徒が1人。
「
彼女の名前は
高校1年生の時に立花と同じクラスになり名前順で何かと一緒になる機会が多く、今では学校生活の殆どを一緒に過ごす親友である。
そして立花の1番の理解者でもあった。
「そうそう、歩美があれだけ彼氏が欲しいって言ってたから無理言ってまでせっかく合コンセッティングしたのになぁ…」
園田はだるそうに隣の席に座り両手を合わせて謝る立花を見て冗談っぽくため息をつく。
高校2年は中だるみの学年だからこそ恋人を作って充実しようと計画していた立花は園田に頼み込んでなんとか合コンを開いてもらうことになったが、その日に急遽用事ができてしまって参加することが不可能になり断ってしまった。
「あれだけ私からお願いしてたのに悪いことしたと思ってるわ。これでも本当に反省してるのよ…今度スイーツ奢るから許して!ね?」
「んー、まぁ…そうだなぁ。...これは奢る以上の事じゃないと許してあげないかもなぁ…?」
「え、何よそれ?奢る以上って…例えば?」
「例えばかぁ。歩美が彼氏欲しいって話からこうなったんだし…。難しいけど、そうだなぁ、誰かに告白する…とか?」
「えぇ!?そもそも今好きな人いないし出会いが欲しくて楓に合コンをお願いしたのよ…告白するのが罰ゲームってよくわかんないわ」
「だから罰ゲームなんじゃない?歩美にとって楽しい事は罰ゲームじゃないしさぁ。今までやってきた罰ゲームも全部楽しんでやってたし、ここいらで1発ドカンとさぁ」
「どんな罰ゲームよ!まあ確かに廊下を全力で走ったり先生が黒板の方を向いてる時に全力で変顔やったり、楽しんでた事は否定しないけど告白するってのは話が飛びすぎて理解できないわ」
「まあ、そうだよねぇ…でもなぁ...」
「楓、歩美はよー。なんか朝から盛り上がってるみたいだけど何の話してるの?」
「お二人さんはよー。昨日歩美が例の合コンドタキャンしたでしょ?その罰ゲームは何するかって話をしてるんだよぉ」
立花と園田の会話に割り込んで挨拶してきたのは、園田と中学からの友達で2年では同じクラスの
この4人がいつものメンバーであり、2年1組の唯一の不良生徒の部類だった。
「例のね、なるほど!あれは歩美がドタキャンしたのが80%悪いもんね」
「残りの20%気になるけど本当にごめん!でもね、美咲聞いてよ!罰ゲームは好きな人いないのに告白しろって楓が言ってくるのよ。どんな罰ゲームって話よね!?」
井上と西川は少し驚いた後、園田の提案した罰ゲームに対して何かを察して冷静さを取り戻す。
「…面白そうそれ」
「…いいかも」
「えぇ!?2人もそっち側なの!?」
「だって歩美はこの学校で1番可愛いし敵なしじゃん!林間学校の時のキャンプファイヤーで女神役やってたじゃん。100%成功するよ。だったら見てみたいな」
「可愛いのはその通りよ。でもあの林間学校の女神は推薦で仕方なくやっただけだわ。だからそういう事じゃ…佳奈は反対よね?」
「私も見たいかな。告白された人も歩美から告白されるなんていい思い出になるんじゃない?」
「いやいや、まさかの3対1?これで私が告白して相手がOKしても当然付き合ったりしないわよ?」
「んー、まぁOKしてきたら実はドッキリでしたー!とか言ったらなんとかなるんじゃない?」
「さすがに適当すぎないそれ?ね、歩美?」
「ドッキリ…なるほどね!それならいけるわね…」
「納得しちゃったよ!じゃあ罰ゲームは異性の誰かに告白に決定でー」
立花を除く3人の拍手の音が朝の静かな教室中に響き渡る。
こうして半強制的に罰ゲームが決まった。
「それで、告白する相手ってどうするのよ?」
「歩美から指名はないの?今好きな人いないなら気になってる人とか?」
「別に気になる人もいないわね…そうよ、どうせ最後はドッキリでしたってやるんだから誰でもいいわ。3人で決めてくれたら私はやるわよ」
「そうだなぁ。じゃあ…全く絡みのない人とか面白そうだねぇ。あ、今後一切関わることなさそうな人とか?後腐れなさそうだし…あの人みたいな?」
園田はそう言って同じ教室の前から2列目の席に座り頭を伏せて寝ているであろう1人の男子生徒に向けて指を差した。
「あの人…誰?」
立花と井上の声が揃う。
「あの人は確か…。あ、そうそう、
「何で佳奈がその人の事知ってるのよ」
「だって1年の時クラス同じだったし。でも1度も話したことないけどね。他の生徒とも絡んでる姿も特に見た事ないし…陰では空気君って呼ばれてたよ」
「そんな人に私が告白するわけ!?陰でのアダ名が空気君って…面白過ぎるじゃない」
立花はニヤリと笑い3人は少し困った表情でアイコンタクトをする。さすがに拒否されると思って他の生徒を探そうとしていた。
「そ、そういえば授業中に空気君が何度もこっちを見てた事があったなぁ。100%意識してたよあれ」
「それってもう私の事完全に好きじゃないのよ!OK、彼に決めたわ!それじゃ早速行ってくる!」
そう言って立花は自分の席から立ち上がり、顔を両腕の中に包み込むように伏せて寝ているであろう小柳の席に向かう。
「ちょっと歩美!もうやるの!?いくらなんでも早いような…こっちの心の準備も...」
「美咲、止めても無駄だよ。歩美は1度決めたら止まることを知らないからねぇ。まあ見てなって」
「それでももう少し抵抗したりとか…」
立花は誰よりも自信家でプライドが高く負けず嫌いといった取り扱いよう注意人物であった。
彼女を上手く扱えるのは家族くらいで、容姿に惹かれて近づく男性も時間が経てば自然と諦め離れていってしまう。
だが、友人としては面白い人という印象になるため友人の数は多い。
そこも魅力の1つではあった。
立花が小柳の席の前に立つと、それに気づいたクラスメイトが立花に聞こえるか聞こえないかくらいの小声で話し始める。
「あの立花さんが空気君のところに行ってるけど何の用だ?」
「きっと立花さんを何か怒らせたとかじゃないの?歩いてる時にぶつかったとか?いや、最悪立花さんの家燃やしたとか?」
「最悪過ぎるだろそれ。燃やしてた場合は怒るどころじゃないと思うけどな。でもいいなぁ…俺も立花さんに怒られてみてぇよ…」
「ねえ、ちょっと!そこの空…えー、小柳君?起きなさいよ」
寝ているであろう小柳を起こすかのように立花は少し声を張る。
小柳は立花に声を掛けられて面倒くさそうに不機嫌そうに少しづつ顔を上げて睨むように見上げた。
彼の名前は
身長は172cmの体型は普通より痩せ型で髪型は寝癖でボサボサしている黒髪ショートヘア。少し鋭い目つきが特徴的で顔はあっさりしている。
一般的にはキツネ顔と呼ばれる部類である。
「あ、起きたわね。まずは、その、おはよう。もしかして本当に寝てたの?」
「…………ああ」
「それは悪いことしたわね」
「…………ああ」
「それで大事な話があるんだけど…いい?」
「…………ああ」
(アンタはカオナシか!文字数少な!ってか、せっかく私から声掛けてあげてるのに何よこのテンションの低さ!そうだわ、まだ寝ぼけてるのね!もしかしたら私が話しかけてるこれも夢だと思ってるのね!)
「その、話ってのはね、実は私、小柳君…」
キーンコーンカーンコーン。タイミング悪く学校のチャイムが校内に鳴り響く。
教室に担任のおじいちゃん先生こと
「ほら皆席に着いてー。朝礼始めるぞー」
「あー、すぐ終わらせようとしたのに。もう!…大事な話はまた後ですぐにでも話すわ」
立花は軽く舌打ちをして自分の席に戻る。
(タイミング悪すぎよ!いや、でもこれでアイツは私の事を意識するはずだわ!大事な話なんて告白しかないんだから)
「歩美お疲れ。いやぁ、まさかおじいちゃん先生が入ってくるとはタイミング悪かったねぇ」
「ホントよ!ササッと終わらせたかったのに。でもいいわ、これでアイツは私に告白されるって意識するから」
「たとえ嘘の告白とはいえ緊張とかした?」
「何で?ただ告白してドッキリでしたってやればいいだけでしょ?するはずないわよ」
「へ、へぇ…」
切り替えの早さや当たり前のように発言する立花に園田は驚く。
立花は既にこの罰ゲームを自分の中で消化し始めていて、ちょっとした意地悪としか考えていなかった。
「来週から中間テストが始まるからしっかりと勉強をして望むように」
担任のおじいちゃん先生は立花に目線を向けて発言するが園田と話していたため全く話を聞いていない。
それよりも今は罰ゲームを早く終わらせる事しか考えていなかった。
立花を含めいつもの4人は毎回赤点をギリギリ回避している。
きっと今回も何とかなると考えていた。
それから1限目の休み時間、2限目の休み時間と、時間があれば早く告白して終わらせようと小柳の姿を探すが毎回休み時間ギリギリになって教室に戻ってくるため結局立花は告白出来ずに放課後を迎えてしまった。
園田、井上、西川(いつもの3人)が帰宅しようとする小柳を探して屋上に連れてくるからということで立花は先に屋上に向かっていた。
(何で毎回休み時間どこかに行くのよ!いくら意識し過ぎて恥ずかしいからって逃げないで欲しいわ!まさか放課後に屋上で告白されるなんてシチュエーション狙って逃げてた!?)
屋上に向かうドアを開けるとそこには30人くらいの生徒達が今か今かと待ち構えていた。
(まあでも今日で罰ゲーム終わらせて…って大事になってるじゃないのよ!!)
朝礼前に立花が小柳に伝えた大事な話という言葉や休み時間に小柳の行方を生徒達に聞いてまわっているうちに噂がうわさを呼び集まってしまった。
自他共に認める学校の可愛いマドンナ的存在だから仕方ないのかもしれない。
(これはアイツが少し可哀想だわ。だってOKしても最後にドッキリでしたってネタばらしするわけだし…恥をかかせることになるわね。ま、もう絡むこともないしどうなってもいいわ)
立花がほんの少しだけ小柳に同情をしていると集まっていた生徒たちから盛り上がりの声が上がる。
立花が後ろを振り向くといつもの3人が息を切らしながら小柳を無理やり連れてきた。
向かい合う2人。それを取り囲む生徒達。
罰ゲームがようやく始まる。
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