揺るがない系最強キャラ、奇跡の三年八組

「天川先輩、月渚先輩って呼んでもいいですか?」

「え、なんで私?」


 先日の陽太先輩の語りのおかげで陽太先輩と天川先輩の関係や、天川先輩の性格など、一方的に詳しくなってしまったので、親睦を深めることにしよう。


 そう決めて、体育祭応援団員の集まりが始まる前にわざわざ白組が使っている、体育館の左側までやってきた。


「昨日陽太先輩と仲良くなって、いろいろあったんですけど……」

「まさか陽太が私のことばっかり喋ったりしてないよね?」

「簡潔に言うならそんな感じですけど」


 天川先輩は顔を真っ赤にした。


 この人いつも俯いたり顔を真っ赤にしているし、陽太先輩の話でも照れ屋と言っていたから、今は照れているんじゃなかろうか。


 であれば俺のことを少なくとも悪く思ってはいないはずだ、と割り切って俺は追撃をかますことにした。


「でもそのおかげで天川先輩と仲良くなりたいって思えたんで、どうですか?」

「まあ、いいや。陽太にはあとで私から言っておくね、私の話ばっかりだとつまらなかったでしょう?」

「いえいえ、結構参考になりましたよ」


 これは事実だ。月渚先輩も月渚先輩で、陽太先輩とは別の方向性ではあるものの大人びていて、新しい視点を知ることが出来た。


「私の過去とか、聞いた?」

「それに関しては全然聞いてないです。陽太先輩の過去なら聞きましたけど」


 たぶん月渚先輩は自分の過去のことを他人に知られたかもしれないと思って気が気じゃなかったのだろう。


 陽太先輩は極まった陽キャかつ非常に大人びていることもあり、月渚先輩に気遣ってあまり深い話はしていないようだ。


「じゃあこれからよろしくお願いしますね、月渚先輩」

「私、一応敵対チームの団長なんだけどなあ」


 会釈をして別れる。


 わざわざ白組の方へ来たからということで、一か所に固まっていた古月と佐藤に話しかける。


「今日二回目だけど、白組の雰囲気どんな感じ?」

「なんだ、偵察か?」

「赤組を先に教えろよお」


 精神年齢も肉体年齢も年上の陽太先輩や月渚先輩と会話した後にただの陽キャに絡むとひどい目を見る。


 俺はそんな教訓を得た。


「ま、赤組は陽太先輩のおかげで大盛り上がりよ」

「白組は……。天川先輩が美少女っていうのと、知性的で神秘的っていうことで主に男子たちが気合入れてる」

「あー……」


 俺は実際に月渚先輩と接触したため、神秘的という印象はなかったが、確かにモテそうな性格をしているし、大人びているし、賢そうだ。


 というか、正直団長が陽太先輩の、大人びた様子を隠した姿と言われると白組の方が強そう。


「にしても、天野先輩も天川先輩もすごいよなあ。ビジュアルよくて、カリスマあって、天野先輩はコミュ力、天川先輩は知力があるんだろ?」


 佐藤があまりにも単純な発言をした。


 だが、確かに彼らにはすごいという感想が、あまりにも単純ながら、最も似合うようにも思える。


「佐藤とは大違いだな」

「コミュ力はギリ、ってとこかな」

「『奇跡の三年八組』の一員と比べるなよ」


 なんだよ奇跡の三年八組って。


 いかにも学園もののラノベとかに出てきそうな設定だな、と考えるが、武田先輩、陽太先輩、月渚先輩という三人を思い出してあながち間違っちゃいないと訂正した。


「三年八組は、前回のテストの学年トップ二十のうち十四名が在籍。しかも、高校一の陽キャである天野先輩、三大美少女にも選ばれている天川先輩、学校最強である武田先輩が所属してる」

「部活面でも、今は引退してしまってるけど、二十四個ある部活のうち十人の元部長が在籍してる」


 定期テストトップ二十のうち七割を占め、三大美少女のうち三割以上を占め、部長のうち四割以上を占める。


 これ、たぶん先生が学校最強のクラスを作ろうとか思いついちゃって作ったやつだろ。明らかに平均値がおかしいもん。


 もし俺がそのクラスに在籍してたら自己肯定感くんがお亡くなりになるわ。


「ちなみにクラスのメンバーは、八組である影響からか二十名しかいない」

「ちょっと待って、何人かは学年トップ二十かつ元部長ってことだよね?」

「そういう人が複数人いるのが奇跡の三年八組ってわけ。全員が体育祭応援団員か実行委員」


 さらっととんでもない爆弾追加されたんですけど???


 ということは三年八組は何だ、クラス活動みたいな感覚でこの体育館に来てるってことなの?


 本来体育祭って一つのクラスが無双したりする行事ではないと思っていたんだが、どうやら俺の勘違いだったようだ。


 クラス対抗リレーとクラス対抗大繩は三年八組の圧勝で幕を閉じるということで問題なさそうだ。


 俺は太陽と翠にそれを伝えようと赤組の方へ向かった。


「太陽、翠。『奇跡の三年八組』の話聞いた?」

「俺は知ってるよ、だって兄ちゃんが所属するクラスだからさ」

「私も、聞いたことある。すごいらしいね、定期テスト全員上位三割とか」


 二人ともこの話をとっくに知っていた上に、なんか新しいエピソードまで追加されててめっちゃ悲しい。


 っていうか翠って本当に転校生か? 現状翠は俺よりこの高校のことについて詳しいんだけど。


「はい、静粛に!」


 二回目とはいえ武田先輩の存在——というかどちらかといえば存在感——にはなかなか慣れることはない。


 結構体感温度も上がって盛り上がっている場を一言で収め、武田先輩は体育祭実行委員長として応援団員会議の司会を始めた。


「今日は各組で学年リーダー決め、それが終わり次第応援合戦の打ち合わせをしていただく! 私はこれ以降関与しないので、各組団長や副団長と学年リーダーを中心にそれぞれ進めてくれ!」


 武田先輩がそう言ってマイクを置き、それぞれに活動開始の合図を出すと、団長たちが動き出した。


「はーいじゃあ赤組! 学年ごとでリーダー決めてね!」


 俺が尊敬する陽太先輩は、圧倒的カリスマ力を見せる陽キャとして君臨していた。あくまで表の顔はこれだということらしい。


「それじゃあ、一年の学年リーダーを決めよう!」

「なんだけどさ、このまま太陽でよくね?」

「私もそう思う」


 俺が天野を学年リーダーに推薦し、翠は即刻それに賛成した。他の一年応援団員もほぼ賛成し、ほぼ満場一致で一年の学年リーダーは太陽となった。


 それから俺たちは学年リーダーを、一年天野太陽、二年は知らない人だった、三年天野陽太に決定した。


 その後、応援合戦の打ち合わせの中で、個人個人で振り付けを考えてこいという課題を出された。


 どんな振り付けにするのか、素人だから俺も太陽も翠も思いきり悩むことになるのだが、それはまた別のお話。

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