異世界に召喚されたら魔王に「我を守って欲しい」って言われたのだが…………

神港 零

第1話 プロローグ

「お兄ちゃん、朝ですよ」


 その第一声で目を見開く。

 すると、そこにはおさげの女の子がいた。

 そのおさげの女の子‥‥‥元い、学生服にエプロン姿した愛らしい双子の妹に目を向ける。


「ふぁ〜もう少し、寝かせてくれよ。未尋みひろ


「そんな事を言っていると遅刻しますよ。朝食、もう少しで出来るので早く下に降りてきて下さい」


「いつも起こしてくれてありがとうな」


 と、俺は未尋に聞こえるように言った。

 すると未尋が少し照れくさそうに「どういたしたして」と言って、小走りで部屋を出ていった。

 その姿がかわいくて少し頬が緩む。

 俺は重たい体を持ち上げて学生服に着替えた。いつも、起こしてくれる未尋には感謝の気持ちでいっぱいだ。それだけじゃない、未尋はあの人たちと違って俺を一人の人間として…………兄として見てくれた。

 俺は着替えが終わり、下に向かって未尋と一緒に朝食を食べた。


「やはり、未尋の料理は上手いな」


「そんな事を言っても私が照れるだけですよ。さっさと食べて学校に行きましょう」


「分かってるって」


 俺たちは朝食を食べて、家を出ていった。


「おーい、未來みらい


 道中、馴染みがある声がしたので振り向くと三人の男女組が走って近づいてくる。


「おはよう、たけるかおり優香ゆうか


「おはようございます」


 俺と未尋は三人に挨拶をする。


「おっす」


「おはよう、未來、未尋」


「おはよー」


 彼らは唯一、俺を対等な友達として見てくれている。


 茶髪で少し軽そうなこいつは桐山きりやま健だ。中学からの付き合いでこいつはイケメンでかなり女の子にモテ、告白されている。全部断っているようだけど……………まぁ、健には好きな人がいるからしょうがない。


 ポニーテールで凛とした雰囲気をただ寄らせるこの子は花崎はなざき薫。俺と未尋の幼なじみで良く、遊んでいた。俺の事をよく気にかけてくれている俺の大切な人だ。


 もう一人のショートヘアで人懐っこい笑みを浮かべている子は柳澤やなざわ優香。健とは幼なじみであり、俺たちのムードメーカーみたいな存在でもある。その明るさに何度も助けられた。


「薫、健たちと登校とは珍しいな。今日は朝練はないのか?」


「うん。地区大会も終わったし、ここのところは朝練はないから久しぶりにみんなと登校出来るよ」


 嬉しそうに笑う薫が可愛らしくて見惚れてしまった。普段は凛とした雰囲気で剣道部を引っ張って行くエースで、男女問わず告白を受けるほど綺麗な顔立ちだが、たまに見せる女の子っぽい仕草に心を奪われた人は少なくないだろう。

 これぞ、ギャップ萌え。

 俺たちは久しぶりに五人で学校に登校した。




 ‥‥‥‥‥‥‥‥放課後、俺は健たちにカラオケに誘われた。


「未來、カラオケ行かないか?」


「ごめん。今日、仕事があるんだ」


 健にカラオケに誘われたが今日は明日、明後日が土日という事で泊まり込みのモデルの仕事が入っている。


「分かった。俺ら四人でいくわ」


「悪い」


「別に謝らなくていいぞ」


 そう言って健が教室を出た。もうそろそろ迎えの車が学校前に来るから俺も教室を出ようとした。


 その時、光に包まれた。


「こんにちは。未來君」


 とびっきりの白金の美少女が目の前にいた。

 俺はいきなりの事で声が出せない。


「私の名前は創造神カルナ。初めまして」


「は、初めてまして?」


「固くならならなくていいよ」


「分かりました」


 俺は冷静を装い、今の状況を分析する。

 さっきまで教室に居たはずだ。もしかして夢かと思い、頬を引っ張る。

 地味に痛い。

 その事からこれは夢って可能性は低いと考える。


「唐突だけど君に頼みがあるの」


「頼みですか?」


「そう。異世界に行って魔王を助けてほしい」


「ん?どういうことですか、魔王を助けて欲しいって?。ここは極悪非道な魔王を倒して!って言うところじゃ」


「極悪非道なのは小説の話でしょ?」


「多分、そうですけど」


 なぜこの神は魔王を助けようとしているだろうか?

 魔王を何から助ければならないのか?

 なんで俺なのか?

 色々な疑問が頭の中にうずまく。


「10世期前、追放された神がいたんだ。その名はロイド。ロイドは親のせいで危険視されて下界に追放されたんだよね。そしてそのロイドは下界に降りた時、知ってしまったのだ。人間ならざるもの達が迫害されているのを。そして、ロイドは魔王の国イベールを再建し、そこの王として…………あっ、転移が始まってる!もう話している余裕ないから後は自分の目でどんなやつか見てから助けるかどうか判断して欲しい」


「投げやり!?その言い回しだと助けなくてもいいってこと‥‥‥‥‥ですか?」


「助けて欲しいけど無理にとは言わない」


「半ば異世界に強制送還しようとしているやつに無理にとは言わないって言われてもなんも感じなんですけど‥‥‥‥‥‥。

 それよりも俺の扱いって元いた世界ではどうなっているんですか?」


「君のいなかったことになっているよ」


「一応聞いとくが俺は元の世界に戻れるの‥‥‥ですか?」


 俺がそう聞くと罰が悪そうな顔を神様がした。


「それは無理かな」


「…………………なぜ俺なんですか?」


「君は魔力を多く所持してたから」


「それは魔力が多い?そんな理由で俺を転移させようと?」


 俺は勝手な物言いをする神様を睨んでため息を吐く。

 すると、神様は恐る恐る言った。


「しょうがないでしょ?異世界の負荷に耐えられる精神力の持ち主、そして異世界に十分適応できる魔力の持ち主、この条件にあう人が君を合わせて五人しかいなかったんだから」


「…………負荷とはなんですか?」


「‥‥‥異世界に渡る際、|能力(スキル)が貰えるんだ。異世界に適応出来るように。しかし、|能力(スキル)を貰う際、精神的苦痛を|伴(ともな)う。普通の人間じゃ精神を病んでしまうだろうが君は精神力が強いし、異世界にすぐに馴染めそうだから選んだの」


「なんか都合が良いように言われてる気がします」


 と、呆れ混じりに言った。

 これ以上、駄々をこねても元の世界に戻れなそうなので俺は仕方なく彼女の要望を飲む。


「分かりました。異世界に行きます」


「ありがとう」


 彼女は微笑んだ。


「もうそろそろ時間だね。じゃあ、会いたい時、会いに来ていいから」


「あと、未來君。異世界にはステータスをあるから着いたら見てみてね」


「分かりました。また、会いましょう」


「大変だと思うけど頑張ってね」


 俺は彼女に手をふり、意識が遠のく。気分が悪い。

 これが精神的苦痛なのか?

 そういえば健たちにお別れを言えなかったな。

 もう一度、会いたいな。

 意識は完全に途切ぎれる。


 俺は、魔王に召喚された。

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