第8話 死物狂いで

「絶望しすぎぃ~笑」

鬼がふと、大時計を見る。


「あ~あ、もう帰んなきゃじゃん」

「バイバ~イ」


「ま・た・明・日」


あいつが、帰った。

ようやく、帰った。


自分の心音が聞こえる。

ドクドクドクと、鼓動が速い。


目の前にあった大時計が光っていた。

あの鬼はきっとそれを通じてここへ来ているんだろう。


自分の顔を鏡で見ると、

顔は真っ黒だった。


無我夢中で走っていたから、

気付いていなかった。


こんなに死物狂いで走ったことはない。

「……外出れないじゃん」


「なんであいつドア無くせるわけ?」

「意味わかんない」


「ほんっとムカつく……」

追いかけられていた時、

階段を降りてすぐドアがあったはずなのに、なくなっていた。


「え」

階段に声が響く。


──ドア、ある。

「は、?」


「おかしいおかしいおかしい!!」

「ドアあんじゃん!!」

「あいつ……!!」


大時計を睨んだ。

ガチャ……

そこに、私が一番戻りたかった現実は存在していなかった。

ドアの先に繋がっていたのは——

ここだった。


「帰ってきたねえ〜!」

「お前!よく生きて帰ってきた!!」

「ど、どうしたの?」


見ず知らずの人に話しかけられて戸惑う。

「今日で、今日で残り10人になった。」


「は、?」

「え、え?」

「最近まで30人居たよね?」


「今日、追いかけられなかった?」

「鬼、居なかった?」


「居たよ、居た!!」

「うん、それで喰われた子ばっかり。」


「そんな……!」

「生き残ってくれててよかった」


「うん、よかった」

「今日生きててよかった」


「……その分今日死んだ子もいるけどね」

「……うん」

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