『異世界生活、思ってたのと大分違いました』
ログンメが首を上下に振りタナロウの選んだ体を確認する。
「……うん…………君は直感までもが
久しぶりに聞いたその声に安心を得ていた一方、その意味深な発言にタナロウは不安を募らせた。
つまりそれはえ~っと……俺が気を遣ってしまったということは~…………あーー、ろくな結果じゃないんだな……。
いつも気を遣った後は決まって俺自身にとってはろくなことがなかった。全く前世で変な
タナロウのテンション低下により
「ハハハっっ! まさかまさか僕の一番のお気に入りを選んでくれるなんてさっ!! キミっていうキミは本当に最高だよっ!! ありがとうっ!! タナロウくんっ!!」
へ? これは予想外の展開。どうやら俺の無意識に発動した気遣いは、ログンメ様の一番選んでほしかったものを選ぼうとするそういう方向に働いたようだ。
もう一押しで安心を得られるとそれを求めタナロウが聞く。
「あのっ……ログンメ様のお気に入りって……俺は一体何の体を選んだんでしょうか?」
俺がそう聞くとログンメ様は
「それはねぇ~、次に君がこの体になって生きてからのお楽しみかなっ。
さてっ! それじゃ、そろそろ君も行った方がいい頃だろうしここら辺で一旦お別れかなっ。タナロウくんとの会話と散歩すごく
じゃあ気をつけてねっ、君の次の命に
そのログンメの言葉を最後に、境界を理解する間もなくタナロウには見るという感覚が戻っていた。
目の前にあったのは細く軽い左肩上がりの坂道。その向こうにはそよ風に
まあ……
人生何があるか分からないとは言ったもんだが、まさか自分にこんな運命が巡ってくるなんてな……。
まっ、とりあえず俺の新しい姿を一拝みしてボチボチNEW生活始めるとするかっ。
「いざ行かんっ! 俺の転生生活ッ!!─────」
ぐっ
(ん???????????????)
勢いよく一歩を踏み出したつもりのタナロウだが、何故か前に進めていない。
ぐっ グッ ぐっ グッ ぐっ グッ─────
その後何度も前に進もうと試みるが
ん? えっ? あれっ? おいっ!! 何だよこれッ!!
この理解不能な状況に次第に
「ふンぐぅっ! ぬんギぃぃぃぃィッッ!!──────ッッぷハァッ!!!!」
はぁはぁはぁはぁ……おかしい……おかしいぞ……嘘だろっ……何で……動けないんだよっ。 どうなってるんだ? 首も手も足もまるで全身コンクリートで固められているみたいだっ。
「まさかログンメ様が間違って魂のまま俺をこの世界に
いや、でも目はちゃんと見えているし声も出て音もちゃんと聞こえてはいるっていう実感はあるし……それはないか……。でもじゃあ何で………」
【タナロウの転生生活1日目】
この日原因不明の停止を余儀なくされたタナロウは、朝から何も飲まず食わずトイレにも行けずで結局原因は何も掴めないまま夜を迎えることになった。
「そういえば、朝から飲まず食わずでトイレにも行ってね~な~……はぁ。
人間って何日飲まず食わずで死ぬんだっけ……一週間くらいは
そんなことを考えながら夜を過ごした。
【タナロウの転生生活2日目】
あ~もう完全に朝だ、昨晩は
よしっ、いつまで続くかも分からないこの状況にかまけて
結局その日も何も口にせず便も出ずでタナロウが動けるようになることはなかった──────────
【タナロウ転生生活3日目】
体の調子のことも含めさすがにおかしいと思った俺は、昨晩も一睡もせずにひたすら考え続けていた。そしてとある説に
俺が今動けないのは封印石的なものに封印されていることが原因で、そのため俺は何も食わなくても平気だし便もする必要もない。俺が丸二日一睡もしてないのに目が回らずぴんぴんしていられている訳である。
それに俺の知り得る限りで封印されてたやつが封印が解かれてから、はい死んでましたなんてのは見たことがないからおそらくこのまま死ぬことはないだろう。
【タナロウの転生生活3カ月目】
タナロウはまだ生きていた─────
あの状態から3ヶ月近く生きたんだ、俺の説がほぼ
内心この世界へ初めて来た頃に抱き始めた不安が消えかかっていたタナロウだったが、彼には新たな不安も芽生え始めていた。それは封印をどうやって解いたらいいのかということだ。この3ヶ月間24時間営業のタナロウが見てきた限りでは、目の前の道を人が通ったという覚えはない。
このまま誰も来なかったら……どうすんだろ。封印に消費期限でもあって自動で解けてくれればいいんだけどな……。そもそも人という存在がこの世界にはいるんだろうか。
その時だった─────
タ タ タ タ タ
ここにいますとばかりにその足音はタナロウに届いた。
……え!!? これって……足音だよなっ!!? 人なのか? それともまた別のっ────
足音はタナロウの存在に気がつくとそこで止まった。タナロウの目の前にいたのは、彼の認識では人以外の何者でもなかった。杖をつき
男は無言のまま、タナロウに向かい目を
この世界に来て初めての人っ!! 異世界人だっ!!
その光景は彼の薄れかけていた異世界へ来た頃の新鮮な気持ちと取り戻させ、且つそれ以上の実感と興奮を与えた。いろいろな感情が相まってかテンションが上がり、本来の自分と今の自分の姿を忘れたタナロウは。
「おはようございますっ!!」
そう男に
タナロウが男に声を掛けてから、男がいなくなるまでは一瞬だった。
「………………」
【タナロウの転生生活8カ月目】
あれから
タナロウが様子を伺っている間、男は水を汲んだ銀のバケツの横にかがみタナロウのことを布のようなもので磨いていた。
(こんなに間近に人を見るのなんていつぶりだろう……)
汗をかきながらも滅茶苦茶熱心に磨いてくれている……。
なんか……この人には私情抜きにしても幸せになってもらいたいと思うな……。人相もいいし真面目だし、何よりこんなしがない石にここまでしてくれているんだ。もうこの人しかいないなっ。
只問題なのは、この状況からどう声をかけるかなんだよな……。この前と同じ失敗をすれば次いつ人が来るかも分からない。かといって黙っててもこのまま帰ってしまうだけだろうし、どうにか上手く状況を伝えて理解してもらって封印を解くために力を貸してもらいたい。
タナロウがそんなことを考えている間にタナロウを磨き上げた男は、自身の
お供え……食べれませんがありがとうございますっ!! お気持ち頂かせて頂きますっ!!
「本当にありがとうございますっ!!」
感謝の気持ちがいつの間にか心から漏れ出ていた。
案の定男はその突然のタナロウの声に目を丸くさせ驚くと、氷の上で足を滑らせてるかのような腰を抜かした足取りを見せながら声を上げて大慌てでその場から逃げ去ってしまった。
「あぁ…………やった……」
そこには綺麗で高そうな銀製のバケツだけが転がっていた。目立ちすぎない
どうしよう……今の優しい人に忘れ物をさせてしまった……。あんなに熱心に磨いてもらったのに恩を
(もしかしたらさっきの人が取りに戻るかもしれない)そう信じタナロウは、銀のバケツがどうにか無くならないようにと有るか無いかも分からない自分の封印されしエスパー能力の強制解放を信じて
カァ カァ カァ カァ
その時が訪れたのはカラスのような鳴き声が
ん? 何だあれ? 石みたいな……ああ俺が映ってんのか。そういえば、この世界に来て一回も自分の姿見たことがなかったな……。封印石に変わりはないだろうが、どれ……今の俺はどんな姿を────。
タナロウが銀のバケツに映る自分の姿を捉えようと凝視すると、次第にその目に像の形がはっきりと映り始めた。
(え……)
タナロウの心の底から言葉が漏れた。
「あぁ~~~~…………そうかぁ~~~~…………はは……そりゃ……動けない訳だなっ…………。ははっ……しかも封印されてすらいねぇじゃんかよっ…………」
タナロウの口調は明るかったが、口は
今まで無駄な期待をしたと思ったと同時にこの先の事考えるとそれが幸せだったとも思えた。あまりの衝撃的現実を処理しきれなかった俺の脳はショートし、気付けばそのまま気を失っていた……。その日から俺は自分に期待することを止めた。
それから随分と長い間タナロウは苦悩した。自分の生き方を受け留められるまで、考え過ぎで記憶が飛ぶ日々を何度も繰り返した──────────────────────
思い返せばこの傍観生活もそんな始まりだったな……。
まぁ自分の生き方を受け入れた後にも色々とあったが、今は心底穏やかでいられている。別に悟りを開いたとかではないが、ただ……いい出会いがあった。
百年が経った今、タナロウが目にしている景色は彼がこの世界に初めてやって来た頃とさほど変わってはいないようにも見える。例えるなら、上級者向けの間違い探しレベル程度。
その景色から見て反対側もまた同様、百年前からその
木祠の中に居る者それ即ち、
見ているだけの俺の転生生活は終了しました・これからは動ける地蔵みたいですッ!! 錬寧想 リンロ @renneisou
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