貴女なしには

緩洲えむ

第1話

 あの子の自信たっぷりな、生意気な態度が気に入らなくて、何度も振ってやったものよ。強がって怒ってたのが、最後は跪いて、ごめんなさい捨てないでくださいと泣いたあの坊やが、今やいっぱしのお医者、それもアカデミー出の秀才だの、大病院の総長だの言われていい気になって、可笑しいったらないわね。頭が良かったのは確かよ、でも詩の一つも捧げてこない不粋者で、あれはきっと失敗して笑われるのが嫌だったんだわ。プライドだけは一人前……いいえそうでもないわね、あの子の泣き顔を見ても嬉しくも何ともない。生きる為なら身体を売るのも何とも思ってなかった。物乞いをしてどろどろに腐った野菜を地面に放られて、食えと言われて本当に食ったんですって。それがわたくしの足元に跪いて、衣の裾に触らせてくださいですって。普段高慢で、人を馬鹿にして楽しんでる輩が、本当無様、惨めったらしいったらないわ。綺麗な顔をわざと泥で汚してみせるの。金に物言わせる奴らと同類にされたみたいでわたくしの方のプライドが傷ついた。でも、それだけわたくしに嫌われるのが怖かったのよ。あの子本当は単純だから、それくらいわかる。

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