32 朝の目覚め、再び


 目が覚めた。

 ひどい寝汗をかいている。汗で寝巻がべたべたと張り付いて気持ち悪い。


「なんだったんだ、今の夢は……」


 体を起こし、目の前の光景に目を開く。


「何度言ったらわかるんだ! ユウは私の物だ! 何が朝の処理だ、ふざけるな!」

「だ、か、ら! いまだに手を出せない処女姫様はすっこんでるにゃ!」

「お前だって処女だろ! お前には言われたくない!」

「にゃにを~!」


 とベッドの上で枕や布団を叩きあっての攻めぎ合いをしているシシィとマーニャの姿があった。

 二人は夢の時とは違く、それぞれきちんとパジャマを着ていた。それが少し残念なような気がしてならない。


 って朝の処理ってなに!? 俺なにされようとしたの!?


 シシィは俺の恋人であり、魔王の娘のお姫様だ。

 そんなシシィと争っているのは、数日前に俺を誘拐して、今はなぜかお咎めなく、さらには俺の部屋に居ついてしまったサキュバスのマーニャだ。

 なぜマーニャはお咎めなしで、しかも俺の部屋に居ついてしまうようになったのかは、この部屋の主人でもある俺にもわからない。追い出そうとしても居座ってしまう。

 しかも質が悪いことに、魔王様から直接、マーニャを頼むと言われてしまった。その頼みに俺は頷くしかなかった。

 というか、俺はマーニャの奴が魔王様に「ユウの部屋に住まわせてほしいにゃ」と直接言ったのだ。それに魔王様は笑顔で頷いた。

 なんで、魔王様!? 魔王様の意図が分からない! 俺、娘の彼氏だよ!? その彼氏の部屋に他の女を住むって言うのを簡単に頷くの!?

 よってマーニャを追い出そうにも追い出せなくなってしまった。

 しかしそのおかげで、それを不満に思ったシシィまでもが豪華な自分の部屋を放置して、俺の部屋に住むと言い出し、これも魔王様は軽々しく首を縦に振る。

 そして目の前の光景が毎度巻き起こるようになった。

 魔王様、安易に首を縦に振りすぎですよ……。


「俺、こんな中で寝ていたんだな……」


 意外と激しめに繰り広げられる布団と枕の攻め合いの中眠っていた自分に、少し戦慄を覚えてしまった。


 それぞれ持つ布団や枕を、勢いよく振りかぶってはおろす二人の女の子の姿、特にその反動で豊かな胸がバインバインと上下する姿に、俺は興奮して鼻血が吹き出しそうになった。

 よし! 今日のお祈りをしとこう!

 

 あぁ、乳よ……。


 コンコン。


「はーい」


 ドアをノックする音が聴こえて、俺はドアを開けに行く。

 するとそこにはエリィの姿があった。


「今日仕事一緒でしょ? 迎えに来たわよ」

「あぁ、ありがとう。すぐに準備するよ」


 エリィが迎えに来たことに驚いた。今までこんなことが無かったから、珍しいこともあるんだな。

 だけど心無しか、エリィの様子が暗いのは気のせいか?


「うん、待ってる。ところで……すごい光景ね……」

「あぁ……」


 いまだにベッドの上で争っている二人を見て、思わずため息を吐いてしまう。


「俺もどうしようか悩んでいるよ……」


 ここ最近の些細な悩み事です、はい。


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