死にたがり邪神と嫁入りした生贄少女 第三章 勇者

光闇 游

0.先代たちの手記

『ラルフ・エルドランの手記』


 (前略)――落ち着いたのを確認後、別室にて話を聞いた。

 何故、観察対象を殴りつけたのか。

 放心した様子だったが、根気よく問いかけていれば、ポツポツと口を開いてくれた。が、その内容はよくわからないものばかりだった。 曰く、「世界が崩壊してから何年が経ったのか」と。

 出生年月日が判明していない為に正確な年齢はわからないが、十二ほどの子供が、何故そんなことを聞くのか。

 それに、あの子が人に暴力を奮うのは始めてのはずなのに、素人の動きではなかった。まるで訓練された兵士、いや、それ以上だったかもしれない。あの子が成人男性の体型であったなら止めるのも一苦労だっただろう。

 あの子はそれ以上の質問はしてこなかった。故に、一般的に推測されている説を伝えた。


 世界が滅んでから、おおよそ二百年だと。


 あの子は絶句していた。顔色が酷く悪かった為、仮眠室で休ませることにし、現場の後処理を優先することにする。

 ただ、仮眠室で寝かせる際、あの子が呟いた言葉がやけに耳に残っている。

「俺はあいつを、ずっと一人にさせていたのか」


 引き取ってから今まで、あの子は自分のことを「僕」と呼んでいたはずだ。

 あの子は。

 ロキは。

 一体、何に成ったのだろうか。


 ×××


『アルクハイト・グレイスの手記』


 アレは隠さなければならない。

 外に出してはいけない。逃がしてはいけない。


 アレはきっと、私を知っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る