19 不可解な結末
その隙を突かれた。
「シズ姉! まだ魔族の気配が……」
チュンチュンと鳴いて、枝の皮を突っつき始めたスズメを見て、鈴音が注意を促そうとしたが、一瞬だけ遅かった。
スズメから抜け出た
「間違いねぇ、これだ!」
喜声を上げて、水霊石が納められた祠へと向かった。
それを遮るように優佳が姿を現すが、オオワシは器用に翼を動かしてその横をすり抜け、祠に突進した。
……いや、その寸前で止まった。見えない壁に阻まれたのだ。
「うぜぇ! こんなもんで止められると、思ってんのか!」
現世で悪魔の正体を現した
そこへ銀の鎖が飛来して、巻き付きながら
「まさかノーラ、魔界に還ったのは囮だったの?」
ユカヤが見つけた分身とは別に、スズメに憑依している分身が、どこかに潜んでいたのだろう。
だが、
いや、これは何かおかしい。この様子は、いつもの
「邪魔すんじゃねぇよ! この犬っころが!」
鈴音を蹴り飛ばした
「来い! 魔剣ディフレイザー!」
悪意の黒き霧をまとった、なんとも不気味な剣が現れた。
それで瞬時に銀の鎖を断ち切った
「キャッ!」
傍若無人な蛮行は止まらず、再び祠へと向かう。
その腕をつかんだのは、双頭の蛇神──
気合と共に
「ノーラ、僕に用があるんだろ?」
「やかましい! どけっ!」
とにかく封印の石を砕くこと、そのことしか頭にないようで、前に立ち塞がるモノは全て排除すべき障害物だと認識しているようだった。
いつの間に現れたのか、中学生ぐらいの少年と少女が加勢する。
眼鏡をかけた少年は、
そして、茶髪で活発そうな小柄で愛らしい少女は、
動けない秋月様に代わり、お付きの二人が助っ人に現れたのだろう。だが……
少年は植物のツタを伸ばし、少女は鳥の形代を飛ばして加勢しようとするが、禍々しい邪気に触れるとツタは枯れ、形代は変色して崩れ落ちる。
その間に準備を整えた雫奈は、武器を構えて
「ちょっとは、落ち着きなさいっ!」
さすがに現世で調律神器ノクティガンドを使うのは気が引けるが、ここまで派手に暴れておいて躊躇するのも今さらだろう。
隠世の視界でチャージした弾丸を、悪魔に向かって撃ち放つ。
まさかこの距離で外すとは思わなかった。
悪魔は尋常ならざる動きで弾道を避けた。だけど、この弾丸は敵を追尾する……のだが、大きく迂回して戻ってきた時には……
強引に振り下ろされた魔剣ディフレイザーの一閃は、盾にしようとした
皆が息を吞む中、
赤い血を滴らせつつも、かろうじて立っている雫奈だが、どう見ても重傷だった。
それでも、ふらふらとした足取りで
「だから……冷静になって、周りを見なさいって……」
雫奈が操作したのだろう。地面の穴から飛び出た弾丸が、
それを見届けて笑顔を浮かべた雫奈は、光の粒子となって散った。
弾丸の効果が出たのだろうか。狂気の去った
「な…んだ、これは……? アタイがやったのか……?」
震える手から滑り落ちた魔剣ディフレイザーが、地面に突き刺さる。
正気を取り戻した悪魔は、信じられないといった表情で自分の両手を見つめると、そのまま頭を抱えるようにして崩れ落ちるように座り込んだ。
今にも泣き出しそうな
「ノーラ。辛い思いをさせてゴメン……」
そう耳元でささやくと、霞のようにその姿を消した。
ここにいる全てのモノが敗北感に打ちひしがれる中、狂乱の魔女と畏れられし悪魔は、天を仰ぎ、滂沱の涙を流し続けた。
ひと言でいえば、最悪の結末だった。
水霊石は砕かれ、
更に言えば、栄太の魂は戻らないまま、
隠世を捜索していたユカヤは、今回の騒動を起こした張本人を見つけると、無表情のまま見下ろした。
例によって、コマネが匂い……ではなく、気配を探って見つけ出したのだ。
「どういうわけか、話してもらえますよね?
二本角を生やした野武士のような姿をした鬼神は、全てが終わったとばかりに晴れ晴れとした表情でうなずいた。
連絡用隔離世に連行されてきた鬼神は、全ての疑問に答えた。
その内容に皆が衝撃を受けている最中、更なる凶報が舞い込んできた。
病室に戻った鈴音からのもので……
再び栄太の容体が悪化し、心肺停止状態になったというものだった。
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