12 生まれたての神様
「……記憶が、ない?」
そう言ってはいるが、子供に深刻そうな様子はない。
それどころか、参った参ったと言いながら、笑っている。
「いや、とてもそんな風には見えないが?」
「まあ、恐らくだが、どうやらワシは生まれたてのようだ」
「その姿で……そんな風に真顔で言われても困るんだが……」
何の冗談だと言いたいところだけど……
「まあ、神様だったら、そういうこともあるのかもな」
「ほう、神とな。ワシがか?」
「違うのか?」
「ふむ、どうだろうか。この場合、神というモノは何かというところから、考えねばならぬだろうな」
なんだか、難しいことを言い始めた。
「どうやらワシは、天界に属してはおらぬようだ。天界に属するモノが神だというのならば、ワシは神ではない……ということになるのう。だが、ワシの記憶は隠世の管理者、そのなかでも付喪神と呼ばれるモノより多くを受け継いでおるようだ」
「つまり……どういうことだ? 世界樹システムの管理者だったモノの子供だけど、どこの所属でどんな立場なのかが分からない……って感じか?」
「まあ、有り体に言えばそうなるのう」
「その知識や記憶は、付喪神から引き継いだと……?」
「そういうことだ。……にしても栄太よ、人にしてはちと飲み込みが良すぎるのう。全く驚いておらぬではないか」
「神使とやらになってから、変な事に巻き込まれまくってるからな。現実世界の常識とは切り離して考える、そんなクセが身に付いたんだろうよ。……ところで、その付喪神の管理者ってのは誰なんだ?」
「誰と特定することは叶わぬよ。なんせワシは、いくつもの願いが寄り集まって結実した存在なのだからな」
生物の親子とは、大きくかけ離れた関係なのだろう。
「神は願いによって生まれるってことか……」
「なぜワシが生まれたのかは、さっぱりだがな。だが、この場に居るということは、お主の手助けをして、無事に現実世界へと送り届けて欲しいというのが、創造主の願いなのやもしれぬな」
「まるで守護神だな。……でも、俺を助けるために神様を生み出したとか、そんなことはあり得ないよな。まあ、何かの偶然だろうけど、もし助けてくれるんだったら非常に助かるよ」
「ああ、任せておけ」
自信満々に答える姿が頼もしい。だけど、少し困ったことになった。
この子供さえ目覚めれば、何か打開策が見つかると思っていたのだが、まさか生まれたばかりだとは思わなかった。
となれば……
「やっぱり名前がないと不便だよな。名前ってどうやって決めてるんだ?」
「う~む、時と共に自然と決まるものだが、今すぐとなると難しいのう」
「今だけ仮に、でもいいから、何かないか?」
「であれば、栄太、お主が決めると良い。いや、決めてもらいたい。自然と……とは言い難いが、正に今こそが名付けの時なのやもしれぬからな」
「俺が決めるのか? ……う~ん、管理者ってことでいいのか? 日本の神様っぽいもので良かったら考えられるけど」
「そうだな。それで頼む」
そうきたか……
でもまあ、何度も名付けをしているだけに、なんとなくコツは分かっている。
……と思ったんだが、この子に関する情報が少なすぎる。
いくら情報が少ないからといって適当につけるのは気が引けるし、せめて、何か特徴とかがあればいいんだが……
なんとなく話し方や雰囲気が豊矛様に似ているような気がするけど、それが神様の特徴なんだろうか。
純粋、清らか、幼い、涼しげ、生粋、武神、豊矛様、無邪気……
純なる音色、粋の音、すいおん? すいね? いき……ねぼこ!
「
「ふむ、アキツイキネボコ……ちと長いが、悪くない響きだ。して、どのような意味なのだ?」
「純粋な音色の矛って感じだな。裏表がなくて真っ直ぐな性格と、心地よい音色を奏でる声や口調。それに、どこか武神に似た気配を感じたから、俺の知る武神の名前から矛のひと文字を頂いた」
「思った以上に、しっかりと考えてくれたのだな」
「そりゃまあな。でだ、
「いや、せっかく頂戴した名だ、今後は
どうなるかと思ったけど、ちょっとは気に入ってもらえたようで安心した。
「でもまあ、ちょっと長いから、普段は
「ああ、構わぬよ」
なんてやりとりをしていると、一瞬だけ子供──ネボコの身体が光を放った。
「えっ? 今のって、もしかして……」
「うむ、どうやら現世の神に選ばれたようだ。やはりワシは、世界樹システムの管理者だったらしい」
「それは、まあなんだ……、おめでとう」
「ちと予想外だったが、感謝する」
なんだか神に感謝されるのは畏れ多いが、現世の神となるのは悪いことではないだろう。……たぶん、だが。
「であれば、ワシからも栄太に礼をせねばならぬな。ふむ……祝福を与えるというのはどうだ?」
「いやいや、すでに三柱の神に祝福されてるんだが。そんなに多くの神から祝福されて大丈夫なのか?」
なんせ、雫奈と優佳に祝福された時は、恐ろしいほどの体調不良に見舞われた。鈴音の祝福は、知らない間に終わっていたけど……
「無論だ。それに、これはお主の魂を守るためでもあるのだぞ? 隠世の外ではいつ魂が崩壊しても不思議はないからのう。それをワシの祝福で強化してやろうというのだ」
「そういうことなら任せるよ。でも問題は、ここからどうやって出るかだよな……」
「それは追々、考えるとしよう」
どこから取り出したのか、ネボコは指輪を渡してきた。
それを言われるがまま、右手の中指にはめる。これにより、時間をかけて徐々に祝福が与えられ、俺の負担を軽くしてくれるらしい。
また、この指輪はお守りになっており、霊力を高めて邪気から身を守ってくれる効果がある。だから、祝福が完了しても身に着けておいていいようだ。
いわゆる、神器というやつなのだろう。
「どうやら、拒絶反応は無さそうだな。霊力がよく馴染んでおる」
拒絶反応とかなかなか物騒だが、問題がなさそうなのでホッとする。
しばらく俺の様子を見守っていたネボコは、満足げにうなずいて立ち上がる。
「ではそろそろ、隠世に戻る方法を探ろうかの」
そう言って、壁に近付いて調べ始めた。
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