黄昏を結ぶ花
夕凪 霧葉
第1話
0.
岩のような巨人が重低音を響かせながら話した。それはあるいは、話し声ではなく鳴き声だったのかもしれないけれど、私の耳には声に聞こえたのだ。
「おや、見知らぬお人だ」
それは明確に私に向けて発せられた声だろう。巨人は目の前の湖に釣り糸を垂らしていたが、大きな顔らしきものは明確に私の方向へ向けていたし、周囲を岩場に囲まれた数キロメートル四方の湖と草原には私とその巨人以外は誰もいなかったのだから。
ひとまずいきなり立ち上がって物理的に襲いかかってくるような事はなさそうだということで心を落ち着けてから、相手に向け一度お辞儀をしてから私は口を開いた。
「私は、魚住季志子です。あなたはどなたですか」
巨人は釣竿らしきものから手を離して顔の下半分をゴツゴツとした手で何度か撫でてから、再びどこから音が出たのかわからない声で名乗りをあげる。
「私は<四つ足で偉大なるものを釣り上げる大岩>だ」
それが名前なのか、あるいは私が聞き違えているのか判断に迷う音の連なりだった。戸惑っているような私の様子が伝わったのか、巨人はもう一度同じ言葉を繰り返す。
そうして、私は何だかよくわからない巨人と、どこかもわからない場所に迷い込んだのだということを改めて認識した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます