動き始めた時間

動き始めた時間

　俺は鈴本さんに誘われて、アイドルを目指すことになった。

　でも今の俺は彼女を失ったばかりの抜け殻。

　やる気が起きずにいたが、彼女の願いを手紙で知った。

　俺はもう少し頑張ってみようと思った。

　最初の一か月は辛く、ひたすらダンスと歌の練習をしていた。

　いくら子役をやっていたからといって、アイドルとして活躍できるかは分からない。

　初めての挑戦が多く、ダンス一つがこんなにも難しいものだって分かった。

　でも何かに挑戦している間は心が動き始めた時間でもあるかもしれない。

　これまで朱里（あかり）を失って止まっていた時間が動きだしたのだ。

　彼女はもういない。

　すがることも、慰めてくれることもない。もちろん励ますことも……。

　それでも俺はこうして頑張っている。

　彼女との約束を、出会いを忘れないためにも生きていかなければならない。

　辛い思いをして、でもそれでもみんなには笑顔でいて欲しいから。

　それからしばらくして、俺はアイドルとしてYouTubeデビューを果たした。

　ダンスのキレ、歌のビブラート。

　うまくはいかなかったが、今俺ができる最大のパフォーマンスだった。

　自分で言うのもなんだけど、顔が良いのでネットの受けは上々。

　小さなコミュニティを確立していった。

「おれ、清水川（しずがわ）裕治（ゆうじ）。よろしくな」

　快活そうに口を開く裕治。

　そのあと、俺は裕治と一緒にユニットを組むことにした。

　彼とのパフォーマンスは何故かがっちりとうまくかみ合った。

　一か月後には島崎アリーナのライブを控えていた。